拾得物の所有権はいつから自分のものになる? 落とし物のルールと手続き

2021年09月15日
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拾得物の所有権はいつから自分のものになる? 落とし物のルールと手続き

道端に財布が落ちているのを見つけて警察に届けたという経験のある方もいるかもしれません。警察に届けた場合は、「持ち主が現れない場合には、拾った人のものになる」、「持ち主が見つかった場合には、1割をもらうことができる」など落とし物に関する知識を何となく知っている方も多いと思います。

実は、このような落とし物に関するルールについては、法律で明確に規定されています。落とし物に関して、法律ではどのようなルールと手続きが規定されているのでしょうか。落とし物を拾った方としては、どのくらい待てば自分のものになるのかどうかが気になるところです。

今回は、拾得物の所有権がいつから自分のものになるのかについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、落とし物を拾ったら

落とし物を拾った場合には、どのように対応したらよいのでしょうか。落とし物を拾った場所が施設内かどうかによって対応が異なってきますので、以下で詳しく説明します。

  1. (1)お店などの施設で拾った場合

    お店などの施設で落とし物を拾った場合には、警察署ではなく当該施設に届け出る必要があります(遺失物法4条2項)。後述する拾得者の権利を行使するためには、落とし物を拾ったときから24時間以内に施設に届け出なければなりません(遺失物法34条3号)。

    落とし物を施設に届け出た場合には、施設から以下の事項を確認されます。

    ① 拾得者情報
    拾得者情報として、住所、氏名、連絡先が聞かれます。

    ② 拾得日時
    拾得日時として、落とし物を拾った日時を聞かれることになります。落とし物を拾ってから24時間が経過している場合には、拾得物件に関する権利を喪失します。

    ③ 拾得の場所
    拾得場所として、落とし物を拾った場所を聞かれることになります。後日、遺失者が判明した場合には遺失者に遺失場所を確認するための情報となります。

    ④ 拾得物件に係る権利に関する意思
    拾得者には、後述する拾得物件に係る権利が認められます。取得物件に係る権利については、すべてを取得することもできますし、全部または一部を放棄することも認められています。そのため、拾得物件に係る権利をどうするのかについて聞かれることになります。

    ⑤ 氏名などの告知の同意の有無
    後日、遺失者が判明した場合に、遺失者に住所、氏名、連絡先を開示してもよいかどうかが聞かれます。氏名などの告知に同意をしない場合には、遺失者から報労金を受け取ることができませんので注意しましょう。

    上記の事項を確認された後、施設から「拾得物件受取書」といった書面が交付されます。当該書面は、拾得者が拾得物の所有権を取得した後に、当該拾得物を受け取る場面で必要になりますので大切に保管をしておくようにしましょう。

    拾得者から取得物の届出を受けた施設占有者は、拾得物件の交付を受けた日から1週間以内に警察署に届け出ることになります。ただし、特例施設占有者の場合には、2週間以内に拾得物に関する事項を届け出れば、拾得物を保管物件として自ら保管することができます。

    なお、当該施設の従業員が落とし物を拾った場合には、拾得者は、従業員ではなく当該施設になりますので注意が必要です。

  2. (2)路上などで拾った場合

    お店などの施設以外で落とし物を拾った場合には、警察署長に届け出る必要があります(遺失物法4条1項)。後述する拾得者の権利を行使するためには、落とし物を拾ったときから1週間以内に警察署に届け出なければなりません(遺失物法34条2号)。

    落とし物を警察所に届け出た場合には、警察官から取得物の施設から以下の事項を確認されます。確認される事項としては、施設で落とし物を拾った場合と同様です。

    • ① 拾得者情報
    • ② 拾得日時
    • ③ 拾得の場所
    • ④ 拾得物件に係る権利に関する意思
    • ⑤ 氏名などの告知の同意の有無


    上記の事項を確認された後、警察官から「拾得物件預り書」といった書面が交付されます。当該書面は、拾得者が拾得物の所有権を取得した後に、当該拾得物を受け取る場面で必要になりますので大切に保管をしておくようにしましょう。

2、拾得者の権利について

落とし物を拾った方には、遺失物法によって以下のような権利が認められています。

  1. (1)逸失者に報労金を請求する権利

    遺失者が判明した場合には、拾得者は、遺失者から落とし物の価値の5%から20%に相当する額の報労金を受けることができます(遺失物法28条1項)。落とし物を拾ったときには、1割の額をもらうことができるといわれているのは、この規定が根拠となります。そのため、お礼の額が1割と決められているわけではありませんので、遺失者と拾得者の協議により、5%から20%の範囲で報労金を決めることになります。その際には、遺失物の価値や種類、拾得の難易などの諸般の事情を考慮して判断します。

    なお、施設内で落とし物を拾った場合には、拾得者と施設に報労金が支払われることになりますので、拾得者が請求することができる報労金は、落とし物の価値の2.5%から10%に相当する額となります。

  2. (2)逸失者が判明しない場合に物件を受け取る権利

    落とし物を届け出た後、警察で遺失者を見つけるための公告を行います。そして、公告をした日から3か月を経過しても遺失者が見つからない場合には、拾得者が当該拾得物の所有権を取得することになります(民法240条)。以前は、6か月とされていた期間が平成18年の法改正によって3か月に短縮されました。

    警察から遺失者が判明した旨の連絡がなかった場合には、拾得者が拾得物の所有権を取得していますので、「拾得物件預り書」記載の引取期間内に、警察署に受け取りに行きましょう。なお、引取期間は2か月で、その期間を経過すると拾得物の所有権は都道府県に帰属することになります(遺失物法36条)。

    なお、クレジットカード、身分証明書、携帯電話などを拾ったとしても当該物件の拾得者が当該物件の所有権を取得することはありません(遺失物法35条)。

  3. (3)物件の提出・保管に要した費用を請求する権利

    拾得者は、拾得物を提出する際に要した費用(運搬費用など)や保管に要する費用(動物の餌代など)を負担した場合には、遺失者に対して請求することができます。

    ただし、遺失者が現れずに拾得者が当該物件の所有権を取得する場合には、拾得者が警察署で保管に要した費用の負担をしなければならない場合がありますので注意が必要です。

3、遺失者が名乗り出たらどうなるの

落とし物を届け出たところ、逸失者が判明した場合にはどうすればよいのでしょうか。遺失者がいつ判明したかによって扱いが異なりますので、以下で詳しく説明します。

  1. (1)3か月以内に判明した場合

    遺失者が公告から3か月以内に判明して、遺失者が遺失物の引き取りを求めた場合には、遺失物の所有権を拾得者が取得することはありません。ただし、遺失者が判明した場合であっても、遺失者が当該物件の所有権を放棄した場合には、拾得者が当該物件の所有権を取得できます(遺失物法32条1項)。

    遺失者が遺失物の引き取りを求めた場合には、拾得者は、遺失者と協議して報労金や費用のすることになります

  2. (2)3か月経過後に判明した場合

    公告から3か月を経過した後に遺失者が判明したとしても、当該物件の所有権は、遺失者ではなく拾得者に移ります。そのため、遺失者が当該物件の返還を求めたとしても、拾得者は返還に応じる義務はありません

  3. (3)拾得物が犬や猫であった場合の注意点

    迷子の犬や猫を拾った場合には、遺失物法4条1項および2項の規定が適用されません。そのため、拾得者は、警察署や施設への届出義務はありません

    これは、警察署などでは動物の飼養に関して専門的な職員や施設などを有しておらず、適切に対応することができないことが理由です。

    もっとも、警察署に遺失物として届出がされた場合には、通常の落とし物と同様に扱われます。拾得者が犬や猫の所有権の取得を希望する場合には、3か月経過後も遺失者が現れない場合には、拾得者が犬や猫の所有権を取得します。

    拾得者が所有権の取得を希望しない場合には、動物愛護法の規定に基づき都道府県などが引き取ることになります(動物愛護法35条3項)。

4、トラブルになったら弁護士へ相談

落とし物をめぐってトラブルになった場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)拾得者の権利をめぐるトラブルの解決

    落とし物を拾った方には、遺失物法に基づく権利が認められています。遺失者が期限内に判明した場合には、拾得者は、遺失者に対して報労金を請求することが認められています

    現金などその価値が客観的に明確であれば、報労金の割合を決めるだけで足りますが、株券、手形、小切手、預金通帳などは額面ではなく、当該物件の価格を基準に報労金を決めることができます。

    1000万円の預金残高のある通帳を拾った場合には、1000万円を基準に報労金を請求することができるわけではありません。どのような価格を基準にするかについては、専門的な判断が必要になりますので、一度弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。

  2. (2)刑事事件をめぐるトラブルの解決

    落とし物を拾った場合には、拾得者の義務として警察署または施設への届け出が義務付けられています。

    このような義務を怠り、落とし物をそのまま持ち帰ってしまった場合には、刑法上の遺失物横領罪が成立する可能性があります(刑法254条)。刑事事件になった場合には、自分一人で対応することは難しいこともありますので、弁護士のアドバイスを受けながら進めていくとよいでしょう。

5、まとめ

何となく知っていた落とし物に関するルールですが、遺失物法によって明確にルールが定められています。落とし物だからといってそのまま持ち帰ってしまうと、遺失物横領罪に問われる可能性もありますので、必ず届け出るようにしましょう。

届出後の落とし物の取り扱いについては、遺失物法のルールに従い、報労金の請求や所有権の取得が可能です。落とし物の金額が高額になればなるほどトラブルになる可能性も高くなりますので、そのような場合には、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています