扶養義務者とは? 親兄弟、事実婚など、その範囲をわかりやすく解説
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- 扶養義務者とは
豊中市が公表している統計資料によると、平成30年度の生活保護受給世帯は、9万1555世帯、生活保護受給者数は、12万1328人でした。生活保護の申請の際には、市区町村役場から親族に対して「扶養照会」という照会手続きがなされることがあります。生活保護を受給するためには、本人に収入や資産がないことの他に、親族からの扶養も期待できないといった状況が必要となります。そのための調査としてなされるのが扶養照会です。
親や兄弟に対する扶養義務があるということは知っていても、具体的にどのような状況で、どの程度扶養義務を履行しなければならないかを正確に理解している方は多くありません。親族から援助を求められたときに、適切に対応できるように、扶養義務の範囲を理解しておくことが重要です。
今回は、扶養義務者とその範囲についてベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、扶養義務とは
扶養義務とはどのような内容で、誰に対して課されている義務なのでしょうか。以下では、扶養義務に関する基本的な知識について説明します。
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(1)扶養義務の意義
扶養とは、幼少、老齢、傷病といった自然的な原因や失業といった社会的な原因によって、自らの資産や能力だけでは生活することができない状態にある方に対し、その方と一定の関係にある方が金銭などを援助することによって養うことをいいます。
扶養を必要とする方に対しては、国や地方公共団体によって生活保護などの公的扶助が行われていますが、扶養を必要とする方と一定の関係にある方に対しては、扶養義務が課されています。 -
(2)扶養義務者とは
民法では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(民法877条1項)と規定しています。また、夫婦については、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(民法752条)とされています。
そのため、直系血族(祖父母、父母、子、孫など)、兄弟姉妹、夫婦は、扶養義務者となりますので、被扶養者が要扶養状態にあり、扶養義務者に扶養能力があるときには、扶養義務が発生することになります。
なお、上記以外の三親等内の親族については、家庭裁判所が特別の事情があると判断したときに限り、扶養義務が生じることになります。三親等内の親族とは、本人からみておじ、おば、おい、めいにあたる方のことをいいます。 -
(3)扶養義務の種類
扶養義務の内容としては、被扶養者との関係に応じて、以下の二つに分けられます。
① 生活保持義務
生活保持義務とは、被扶養者の生活を扶養義務者の生活水準と同程度に維持しなければならない義務のことをいいます。生活保持義務は、同じ屋根に住む者同士の自然的な愛情で結びついている関係にあるもの同士に認められる義務ですので、生活扶助義務に比べて重い義務となっています。
このような生活保持義務は、「夫婦間」や「親の未成熟子に対する関係」といった密接な関係性を有する者同士の間において生じます。
② 生活扶助義務
生活扶助義務とは、扶養義務者自身に経済的余力があるときに、その余力をもって被扶養者を扶養する義務のことをいいます。
生活扶助義務は、「子どもの親に対する関係」や「兄弟姉妹間」といった関係にある者同士の間において生じます。そのため、兄弟姉妹から援助を求められたとしても、経済的に余裕がない状態であれば、金銭的な援助をする義務はありません。 -
(4)扶養義務の内容
扶養の内容や程度については、基本的には、扶養を求める被扶養者と扶養義務者との間の話し合いによって決めることになります。扶養の程度または方法について当事者間で協議が調わないときまたは協議をすることが困難なときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力、その他一切の事情を考慮して、裁判所が決定することになります(民法879条)。
2、健康保険上の被扶養者とは
上記の説明は、民法上の扶養義務者についての説明ですが、社会保険上の扶養者とは、その目的や趣旨の違いから範囲を異にしています。以下では、健康保険の被扶養者の範囲について説明します。
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(1)被扶養者の範囲
健康保険における被扶養者の範囲は以下のとおりです。
① 同居していることが条件とならない方- 配偶者(内縁を含む)
- 子ども、孫、兄弟姉妹
- 父母などの直系尊属
② 同居であることが条件となる方
- 上記以外の三親等内の親族
- 内縁の配偶者の父母、連れ子
- 内縁の配偶者死亡後のその父母、連れ子
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(2)生計維持の基準
健康保険上の被扶養者として認定されるためには、被保険者の収入によって生計を維持されているという関係があることが必要になります。このような生計維持関係の認定については、以下の基準によって行われます。
① 被扶養者が同一世帯に属している場合
被扶養者の年間収入が130万円未満(被扶養者が60歳以上または障害厚生年金を受給できる程度の障害者の場合には180万円未満)であって、かつ、扶養義務者の年間収入の2分の1未満であるときには、健康保険上の被扶養者となります。
なお、上記の基準に該当しないときでも、被扶養者の年間収入が130万円未満(被扶養者が60歳以上または障害厚生年金を受給できる程度の障害者の場合には180万円未満)であって、かつ、扶養義務者の年間収入を上回らないときには、その世帯の生計状況によっては扶養が認定される場合があります。
② 被扶養者が同一世帯に属していない場合
被扶養者の年間収入が130万円未満(被扶養者が60歳以上または障害厚生年金を受給できる程度の障害者の場合には180万円未満)であって、かつ、扶養義務者からの援助による収入額よりも少ないときには、被扶養者となります。
3、遺産分割における扶養寄与分
扶養については、金銭的な援助をする場面だけでなく、遺産分割の場面でも問題となることがあります。以下では、遺産分割における扶養寄与分の請求について説明します。
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(1)扶養寄与分とは
生前に亡くなった方の財産の増加や維持に関し特別の貢献をしたときには、遺産分割において多くの遺産を取得できるようにする制度として「寄与分」という制度があります。寄与分の制度については、どのような場合に認められるかについてある程度の類型化がされており、その類型のひとつとして、扶養型の寄与分があります。
扶養型の寄与分とは、被相続人との関係性から期待される通常の扶養義務の範囲を超えて、相続人が被相続人を扶養した場合に認められる寄与分のことです。 -
(2)扶養寄与分が認められる例
扶養寄与分が認められる具体例としては、以下のようなものがあります。
- 被相続人に対し定期的な仕送りをしていたこと
- 被相続人の生活費を負担していたこと
- 相続人と同居をして、被相続人の生活全般の面倒をみていたこと
扶養型の寄与分が認められるためには、「通常期待さえる扶養義務の範囲を超えて」扶養がなされていたことが必要になります。そのため、被相続人に複数の子どもがいる状況で、そのうちの1人がすべての生活費を負担していたというような状況でなければ、扶養寄与分を認めてもらうのは難しいといえます。
4、弁護士に依頼するべきメリット
扶養権利者から金銭的な援助を求められたとしても、扶養義務者が扶養権利者とどのような関係にあるかによって、扶養義務の内容と程度が変わってきます。また、具体的にどの程度の扶養をする必要があるのかについても、法律に規定があるわけではないため、当事者同士の話し合いによって解決しなければなりません。
しかし、当事者同士の関係性によっては、話し合いの機会を設けることも難しいことがあり、具体的な扶養料の話までできないことがあります。そのようなときには、弁護士に交渉を依頼して行うことが有効です。
弁護士であれば、相手と冷静に話し合いを進めることができますし、扶養料としてどの程度の金額が妥当なのかについても、法的見地から適切な金額を導き出すことができます。仮に、調停などになったとしても、弁護士に調停手続きを一任することができますので、複雑な手続きに悩むことなく安心してすすめることが可能です。
また、遺産分割において特別の寄与をしたとして扶養寄与分を請求するときにも弁護士にサポートは不可欠となります。
寄与分を請求するためには、被相続人に対して特別の寄与をしていたということを証拠によって証明していかなければなりません。扶養型の寄与分が認められるかどうかについては、個別の事情によって異なってきますので、「生活費をいくら負担していれば認められる」といった一律の判断ではありません。そのため、寄与分の請求に精通した弁護士に相談をして、遺産分割手続き全般のサポートを受けることが必要となります。
このように、扶養に関しては、あらゆる場面で弁護士によるサポートを受けてすすめることが有効な手段となりますので、まずは弁護士に相談をするとよいでしょう。
5、まとめ
「扶養」という言葉はさまざまな場面で登場してきます。自分が当事者になったときに備えて、各場面における扶養の定義や内容を正確に理解しておくことが重要です。
特に家族や親族から金銭的な援助を求められたとしても、生活扶助義務しか追わない扶養義務者としては、自らに余力がある場合に限り、援助をする義務を負うに過ぎません。そのことを相手に伝えても納得が得られないようであれば、弁護士に相談し、対応をしてもらいましょう。
扶養義務者のことでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています