敷金が原状回復費用に使われて、返ってこない! 返金させる方法は?
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大阪や京都のベッドタウンである千里中央は、数多くの集合住宅が存在します。
賃貸物件の賃借人(物件を借りている人)と賃貸人(物件のオーナー)とのあいだでトラブルとなりやすいといわれているのが、退去時における「敷金」の返金に関するものです。令和2年には、国民生活センターに1万2048件の相談が寄せられています。
そこで本コラムでは、敷金の法的な性質から返金をめぐり賃貸人とトラブルになってしまったときの対処法について、べリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、敷金の定義
まずは、敷金とはどのようなものをいうのか、概要を確認していきましょう。
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(1)敷金とは?
民法第622条の2第1項によりますと、敷金は以下のように定義されています。
いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう
つまり敷金とは、不動産の賃貸借契約にともなって、賃借人から賃貸人に対して交付される金銭などのことです。
一般的に、敷金に関する取扱いは賃貸借契約に付随する形で敷金契約で取り決められます。
不動産の賃貸借契約は、「賃借人は賃料を遅滞なく支払うこと」「賃借人は借りている家屋や器具備品は壊さないこと」など、賃借人が賃貸人に対して守らなければならない事項に関する条文が入っていることが通常です。このような事項を、賃借人の「債務」といいます。
そして敷金は、賃借人に債務の不履行があったとき、それに充当される性質の金銭です。つまり、敷金は家賃の不払い分や不動産の修繕費などとして使用することになります(民法第622条の2第2項)。なお、当初受け取った敷金が余った場合、賃貸人は賃借人に対して、返金しなくてはなりません。このことから、敷金は賃貸人による預かり金の性質も有しています。
なお、賃借人が賃貸人に対して「今月の家賃が払えないので、敷金から充当しておいてください」と申し出ることはできません。
一般的に、敷金は礼金と一緒のタイミングで目にすることが多いため、混同しがちかもしれません。礼金は「不動産を貸してくれた賃貸人に対する御礼」の性質を持ち、賃貸人から賃借人への返還義務が一切ないものです。そのため、敷金とは、その本質がまったく異なります。 -
(2)敷金はいつ返ってくる?
賃借人が賃貸人に対して敷金を返すように求める権利のことを、「敷金返還請求権」といいます。
民法第622条の2では、以下2つの場合において敷金返還請求権が発生し、賃貸人は賃借人に対して、債務の額を控除した残額を返還するよう規定しています。- 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
- 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
2、原状回復の具体例
敷金は原状回復費用に相殺されることがわかりました。それでは、どのような損傷であれば、賃借人に原状回復義務が生じるのでしょうか。
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(1)原状回復義務とは?
民法第621条では、以下のように規定しています。
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
ここでいう義務が、賃借人の賃貸人に対する「原状回復義務」です。
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(2)原状回復の具体例
では、どのようなケースにおいて現状回復義務が生じると考えられるのでしょうか。具体的にみてみましょう。
- 床(フローリングや畳など)……引越作業などで生じた傷、賃借人の不注意による雨の吹込みにより生じたシミ
- 壁、天井(クロスなど)……タバコのヤニによる汚れ・臭い、賃借人が開けたクギ穴やネジ穴、賃借人所有のクーラーからの水漏れによる腐食、天井に設置した照明器具の跡
- 建具(ふすまや柱など)……ペットによる傷や臭い、子どもによる落書き
- 器具設備(換気扇、備え付けの冷暖房器具など)……日常の不適切な手入れまたは用法違反による設備の毀損
- 水回り(風呂、トイレ、キッチンなど)……異物を流したことによる詰まり
- その他……鍵の紛失や破損による取替え、戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
上記のように、賃借人の故意・過失・善良なる管理者としての注意義務違反により、通常の使用の仕方では生じるはずのなかった損耗や毀損に対してのみ、原状回復義務が生じると考えられます。
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(3)敷金の返金を要求できる例は?
賃借人の賃貸人に対する原状回復義務は、賃借人に対して賃借物をあたかも時間を戻したかのように入居する前の状態に戻して返却することを義務付けるものではありません。
普通に使用していれば当然に生じると考えられる損耗・毀損に対しては原状回復義務は発生せず、当然、その費用を、敷金で負担する必要もありません。
もしも、経年変化等の回復費用を敷金から負担させられていた場合、敷金返還請求権に基づき当該費用に相当する敷金について、賃貸人に対して返還を請求することが可能です。もちろん、何ら理由なく敷金を返還してもらえない場合も請求することができます。
3、敷金の返金を請求するための具体的な方法
それでは、敷金返金を求めるとき、どのように行動すればいいのでしょうか。具体的な方法について、見ていきましょう。
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(1)賃貸人との直接交渉
敷金の返金額に納得がいかなければ、まずは賃貸人と話し合ってみましょう。
しかし敷金の返金交渉は、賃貸人と個人的な感情が交錯しやすいものです。このような場合、弁護士のような第三者を介在させることによって、冷静な話し合いによる解決を目指すことも選択肢のひとつです。 -
(2)内容証明郵便の送付
賃貸人との話し合いがまとまりそうになければ、内容証明の送付を検討してみましょう。
「内容証明」とは、送付者からの申し出によりその内容を日本郵便が記録する郵便物のことです。これにより、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の手紙を送付したかという事実が客観的に証明されることになるため、当事者どうしによる後日の「言った・聞いていない」などのような水掛け論を防止する効果があります。
内容証明はそれを送付することにより送付先に対して何らかの特別な法的拘束力が発生するというものではありません。しかし、内容証明を送付することにより、賃貸に対して「敷金の返還を求めることについて、自分は本気だ」というプレッシャーを与える効果が期待できます。 -
(3)少額訴訟も視野に
賃貸人からの敷金返金が当事者どうしの話し合いで望めない場合は、少額訴訟を提起することも選択肢のひとつです。
民事訴訟法第368条から381条に規定する少額訴訟とは、簡易・迅速な裁判上の手続きにより60万円以下の金銭の支払いを求める訴訟で、簡易裁判所で取り扱われます。
返金を求める敷金の額が60万円以下であれば、少額訴訟を提起するか、通常の民事訴訟を提起するか選ぶことが可能です。
少額訴訟では、原則として1回の期日で審理を終え(1期日審理の原則)、ただちに裁判官から判決の言い渡しがされます。そのため審理においては、即時に取り調べることができる証拠に限定して証拠調べがなされます。
少額訴訟においては、原告・被告ともに判決に対して控訴することが認められていません。一方で判決に不服がある当事者は異議の申し立てが認められており、異議の申し立てがあると通常の民事訴訟に移行します。
少額訴訟の提起は通常の民事訴訟と比較して簡便な手続きで提起することが可能ですが、それでも裁判手続きであるために書類の作成などの手間が生じます。
この点、弁護士に依頼すれば必要書類の作成や裁判上の手続きはもちろんのこと、代理人として裁判に出廷し、弁護活動を行うことが可能です。また、訴訟に至らない段階であってもあなたの代理人として賃貸人と交渉し、敷金の返還を目指します。
4、まとめ
これまでご説明したように、賃貸人との敷金返金に関するトラブルはおひとりで進めようとせず、弁護士をパートナーとすることがおすすめです。
べリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスでは、敷金の返金に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています