夫の「泥酔」は離婚理由になる?|妻がとるべき対応
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夫の酒癖が悪いと、泥酔した際に妻や家族に対して暴力を振るう、ハラスメントをするなどして家族が大きく疲弊することがあります。日常的に泥酔しているようであれば、アルコール依存症の可能性もありますので、本人が更生するには医療のサポートが不可欠になります。
アルコール依存症のために夫との関係が冷え切っている場合は、離婚もひとつの選択肢になりえるでしょう。しかし、そもそも夫が泥酔するという理由で離婚することはできるのでしょうか。
今回は、夫の泥酔を理由に離婚する方法などについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、夫の泥酔が妻に及ぼす被害
お酒の飲みすぎで夫が泥酔してしまうと、妻は以下のような害を被るおそれがあります。
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(1)暴力
普段はおとなしい夫でも、お酒を飲んで泥酔すると人格が変わり、乱暴な態度に出ることがあります。たとえば、妻に対して、殴る、蹴る、髪の毛を引っ張る、押し倒すなど、さまざまな暴力を振るうことが挙げられます。
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(2)ハラスメント
泥酔して気分が大きくなると、妻に対して、精神的な苦痛を与えるモラハラなどのハラスメントを行うことがあります。泥酔した本人は、ハラスメントをしているという認識はなくても、被害を受けた妻は、多大な精神的苦痛を被ります。
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(3)朝帰り
自宅ではなく外でお酒を飲む場合、何件も飲み屋をはしごして家に帰るのが深夜や翌朝になることがあります。朝帰りが増えると、健康を害して会社を欠勤したり、仕事をクビになったりするおそれがあります。また、家族の時間が失われ、夫婦の信頼関係にも亀裂が生じるでしょう。
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(4)家事や育児の放棄
自宅で一日中飲酒し泥酔している場合、家事や育児に協力せず、家庭内の負担が妻だけに偏ってしまいます。互いを支えあって生活する実感もなくなり、離婚を考えるきっかけになる人もいるでしょう。
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(5)会話にならない
夫が日常的に泥酔していると、夫婦の会話をしたくても会話になりません。夫婦間で大事な話をしようとしても、泥酔状態では記憶に残らないため、会話に意味を見いだせず失望が大きくなります。その結果、夫婦の会話が減っていき、精神的に疎遠になってしまいます。
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(6)性行為の強要
夫婦であってもお互いの合意なく性行為をしてはいけません。泥酔して判断力がなくなると、妻が拒否しているにもかかわらず、無理やり性行為を行おうとするケースがあります。
性行為を強要されると、妻には肉体的にも精神的にも多大な苦痛が生じます。 -
(7)セックスレス
泥酔した夫がすぐ寝てしまうため、性行為の機会がなくセックスレスになることがあります。妻が子どもを望んでいるにもかかわらず、夫がお酒を飲んでばかりで協力してくれない場合、不満が高まり夫婦のすれ違いが生じてしまいます。
2、アルコール依存症に関して家族ができること
妻に被害を及ぼすような泥酔を繰り返すことは高確率で「アルコール依存症」である可能性があります。夫がアルコール依存症だった場合、家族は以下のようなサポートをすることができます。
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(1)アルコール依存症という病気への理解を深める
アルコール依存症の夫をサポートするためには、まずは、アルコール依存症がどのような病気であるかを理解することが大切です。アルコール依存症に関する正しい知識をつけることで、アルコール依存症に悩む夫に対して、どのようなサポートができるかを知ることができます。
本やインターネットなどからの情報収集だけでなく、保健所の相談窓口や自治体の依存症の学習会などを活用し理解を深めていってください。 -
(2)本人とのかかわり方を工夫する
お酒を飲むのをやめてほしいからといって、飲酒する夫を叱責するのは、反発を招き逆効果になってしまいます。依存症は病気のため、家族といえども適切な対応をするのは困難です。アルコール依存症の医療の専門家やカウンセラーを介すなど、夫とのかかわり方について見直しましょう。
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(3)医療機関への治療につなげる
アルコール依存症は、病気ですので本人の努力や家族のサポートだけでは、改善できないこともあります。そのような場合には、アルコール依存症を扱う専門の医療機関を受診することをおすすめします。
本人が医療機関での治療に消極的な場合は、相談窓口などにアドバイスを求めましょう。家族がすべてを背負わないためにも医療機関など、専門家とつながることは大切です。
3、泥酔する夫と離婚する方法
泥酔する夫と一緒に生活することが難しいと感じる場合は、離婚という方法もひとつの選択肢になります。以下では、泥酔する夫と離婚する方法について説明します。
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(1)協議離婚
泥酔する配偶者との離婚を決意したら、まずは配偶者との話し合いをして離婚を目指します。話し合いによる離婚のことを「協議離婚」と呼び、夫婦の有効な合意があれば理由のいかんを問わず離婚をすることができます。
ただし、夫が泥酔している状態だとまともに話し合いができませんし、有効な離婚の合意が得られませんので、話し合いをするときは、夫がしらふのときに行うようにしましょう。
お互いに離婚の合意に至ったときは、離婚届に記入をして、それを市区町村役場に提出すれば離婚は成立します。離婚条件を定めたときは、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず離婚協議書を作成するようにしましょう。 -
(2)調停離婚
泥酔する配偶者との話し合いでは離婚の合意に至らないときは、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。離婚調停では、裁判所の調停委員が話し合いを進めてくれますので、夫婦がお互いに顔を合わせて話し合いをする必要はありません。普段は、お酒を飲んで泥酔している夫でも、裁判所での調停であればお酒の入っていない状態で話し合いをすることができるはずです。
なお、調停は、基本的には話し合いの手続きですので、協議離婚と同様にお互いの合意がなければ離婚は成立しません。 -
(3)裁判離婚
離婚調停でも離婚の合意が得られなかったときは、最終的に家庭裁判所に離婚訴訟を提起します。離婚訴訟では、協議離婚や調停離婚とは異なり、裁判所の裁判官が夫婦の離婚を判断しますので、夫が離婚に反対していたとしても離婚をすることができます。
ただし、裁判で離婚をするためには、民法が定める以下のような法定離婚事由が必要になります。- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
泥酔する夫と離婚するためには、上記の法定離婚事由に該当することを主張立証していかなければなりません。泥酔が法定離婚事由に該当するかどうかについては、4章で詳しく説明します。
4、夫の泥酔は法定離婚事由になるか?
そもそも夫の泥酔は、法定離婚事由に該当するのでしょうか。
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(1)泥酔によって妻に生じる被害の内容によっては法定離婚事由に該当する
夫が泥酔するという事情は、法定離婚事由のいずれにも該当しませんので、それだけでは裁判離婚をすることはできません。
しかし、夫の泥酔をきっかけとして以下のような被害が生じている場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。- 泥酔した夫から暴力を振るわれている
- 泥酔した夫からハラスメントを受けている
- 泥酔した夫から無理やり性行為を強要された
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(2)裁判離婚をする際には証拠が重要
裁判離婚を考えている場合には、離婚を請求する側において法定離婚事由に該当する事実を主張立証していかなければなりません。そのためには、法定離婚事由の事実を示す証拠を確保しておくことが大切です。
証拠がなければいくら夫から被害を受けていると主張しても、裁判所に離婚を認めてもらうことはできません。反対に、夫からの被害を裏付ける証拠があれば、離婚だけでなく慰謝料請求も認められる可能性が高くなります。少しでも有利に離婚を進めていくのであれば、あらかじめ十分な証拠を確保しておくようにしましょう。
なお、アルコール依存症の夫に医療機関を勧めたが、夫がそれに応じず、アルコール依存症を治療しようとしなかったことなども、夫が婚姻継続の努力をしなかったとして、離婚訴訟における証拠になり得ます。
5、夫との離婚を検討されている方は弁護士に相談
泥酔する夫との離婚を検討されている方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)法定離婚事由に該当するかどうかを判断できる
夫婦の合意があれば夫の泥酔が離婚理由であっても、離婚することができます。しかし、夫が離婚に反対している場合には、法定離婚事由に該当する事情があるかどうかが重要なポイントになります。
法定離婚事由に該当するかどうかは、さまざまな事情を総合考慮して判断する必要があります。弁護士であれば、具体的な状況を踏まえて、裁判離婚が可能であるかを正確に判断することができます。法定離婚事由の有無は、今後の離婚の進め方にもかかわってきますので、まずは弁護士に相談し判断を仰ぐとよいでしょう。 -
(2)夫との離婚交渉を任せることができる
泥酔する夫とふたりだけで話し合いをするのは、酔った勢いで暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりするリスクがありますので、弁護士に交渉を任せるのが安心です。
弁護士が窓口になって離婚交渉を行えば、当事者同士だと感情的になってしまう事項でも冷静に話し合いを進めることができます。話し合いが不安だという方は、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。 -
(3)離婚調停や離婚裁判になった場合もサポートしてもらえる
当事者同士の話し合いで解決できない場合には、離婚調停や離婚裁判の手続きを利用する必要があります。
離婚調停では裁判所の調停委員が同席しますが、基本的には夫婦の話し合いになります。そのため、不安や緊張からうまく主張できずに終わってしまうことも少なくありません。さらに、離婚裁判になると法的観点からの主張や証拠による立証が必要になりますので、知識や経験がなければ適切に進めていくのが難しいといえます。
そのため、少しでも離婚手続きを有利に進めるためにも弁護士にサポートを求めることをおすすめします。
6、まとめ
泥酔する夫と離婚をする場合には、まずは法定離婚事由に該当する事情があるかどうかを見極めることが重要です。夫が泥酔するという事情だけでは法定離婚事由には該当しませんが、酔った夫から暴力を受けた、ハラスメントの被害を受けたという場合には、裁判離婚ができる可能性があります。
泥酔する夫の離婚を決断した方は、夫に離婚を切り出す前に、まずはベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています