SNSで起こりうる未成年略取とは? 本人・親の同意があっても誘拐なのか
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令和元年年11月、大阪の小学6年生の女児が栃木県の交番で保護され、一緒にいた男性が未成年者誘拐罪で逮捕・起訴されたという事件がありました。
現代社会では、SNSが発展しており、面識のない相手とも簡単に会うことができるようになりました。しかし、このような事件があったことを考えると、本人の同意があるからといって、未成年者とSNSを通じて会うことは大丈夫なのかどうか不安になる方もいるかもしれません。
今回は、SNSで起こりうる未成年者略取・誘拐について、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、未成年者略取とは
未成年者略取とはどのような犯罪をいうのでしょうか。以下では、刑法が定める未成年者略取の罪について説明します。
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(1)未成年者略取とはどのような犯罪か?
刑法224条では、未成年者を略取、または誘拐した者の罰則について、3か月以上7年以下の懲役にするものと定めています。
①略取とは
略取とは、暴行・脅迫などの強制的な手段を用いて、被害者を本来の生活環境から離脱させ、自己または第三者の事実的支配のもとにおく行為のことをいいます。
第三者が無理やりに未成年者を連れ出す行為をすれば、当然に未成年者略取にあたりますが、別居中の夫婦が子供を連れ去る行為についても、未成年者略取に該当する場合がありますので、注意が必要です。
②未成年者とは
未成年者は、民法4条において「年齢20歳をもって、成年とする」と規定されており、20歳未満の者を指します。これは、刑法上も同様に考えられています。
もっとも、令和4年4月1日から民法が改正され、成年年齢が18歳に引き下げられることになりました。そのため、令和4年4月1日以降は、未成年者略取の「未成年者」とは、18歳未満の者を指すことになると考えられます。
ところで、逮捕報道では犯人の供述として「未成年者であるとは知らなかった」という供述を耳にすることあります。
しかし、未成年者略取の罪においては、犯人が未成年者であることを知らなかったとしても、未成年者であることを知り得た場合には成立することになります。そのため、服装や言動から未成年者であるかもしれないと認識する余地があった場合は、本罪が成立する可能性がありますので、注意が必要です。 -
(2)未成年者略取は親告罪
親告罪とは、被害者からの告訴がなければ刑事事件として起訴をすることができない犯罪のことをいいます。
未成年者略取は、親告罪として規定されていますので、未成年者や未成年者の親権者によって告訴がなければ、起訴されることはありません。 -
(3)略取の目的によって罪の重さが異なる
刑法223条は、未成年者を略取または誘拐した場合の法定刑として、「3か月以上7年以下の懲役」と規定しています。
これは単に未成年者を略取または誘拐した場合の法定刑であり、犯人の目的が以下のようなものであった場合には、さらに罪が重くなります。
①営利、わいせつ、結婚または生命もしくは身体に対する加害の目的の場合
以下の目的で、未成年者に限らず被害者を略取、または誘拐をした場合には、「1年以上10年以下の懲役」に処せられます(刑法225条)。営利目的 財産上の利益を得る目的のこと。たとえば、犯人が借金を返済するために、連れ去った人を働かせて金を得るような場合など。 わいせつ目的 姦淫その他の性的行為をする目的のこと。 結婚目的 犯人または第三者と結婚をさせる目的のこと。この場合、法律婚に限らず、内縁関係などの事実上の婚姻関係でも足りる。 生命・身体に対する加害の目的 殺害、傷害または暴行を加える目的のこと。
②身の代金目的の場合
憂慮に乗じてその財物を交付させる目的(身の代金目的)とは、被害者の安否に関して近親者や被害者を心配する者の憂慮の状態を利用し、被害者を釈放、または危害を加えないことの代償として財物を交付させる目的をいいます。
このような目的で未成年者を略取または誘拐した場合には、「無期または3年以上の懲役」に処せられます(刑法225条の2)。
③国外移送が目的の場合
所在国外に移送する目的で、未成年者を略取または誘拐した場合には、「2年以上の有期懲役」に処せられます(刑法226条)。
2、未成年者略取と誘拐との違い
刑法224条は未成年者略取の罪とともに未成年者誘拐の罪を規定しています。両者は何が違うのでしょうか。
「略取」については、すでに説明したとおり、犯行の手段として暴行・脅迫などの強制的な手段が用いられる場合です。
他方、「誘拐」とは、偽計または誘惑を手段として用いられる場合をいいます。
未成年者を無理やりに連れ去った場合が「略取」、未成年者をお金や物で誘惑して連れ去ったような場合が「誘拐」とイメージしてもらえればわかりやすいと思います。
3、本人や親の同意があったらどうなるのか
SNS上で知り合った未成年者と遊ぼうとする際に、「未成年者本人の同意があるから大丈夫だろう」と考えていませんか。実のところ、未成年者本人の同意を得ていたとしても、犯罪が成立することも十分に考えられます。
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(1)本人の同意だけでは犯罪が成立する場合がある
未成年者略取の罪については、未成年者の身体の自由や生活の安全だけでなく、保護者の監護権も保護するもの(保護法益)とされています。
そのため、未成年者の同意があったとしても保護者の同意がない場合には、保護者の監護権を侵害しているため、未成年者略取の罪が成立することになります。「未成年者の同意があった」「未成年者は嫌がっていなかった」などの事情があったとしても、未成年者略取の罪の成立には影響がありませんので、注意が必要です。
親戚の子供と遊ぶ場合でも、保護者に無断で出かけると、あとあと問題になるケースもありますので、きちんと保護者の同意を得ておくようにしましょう。
なお、これらを踏まえると、未成年者と保護者の双方から同意があるようなケースでは、未成年者略取の罪は成立しないことになります。 -
(2)SNS上で知り合った未成年者と会うことは危険
SNS上で知り合った未成年者と会おうとする場合、お互いに面識がないケースがほとんどです。そのようなケースでは、未成年者の親から同意を得ることはほとんどなく、未成年者略取の罪が成立しやすい状況にあるといえます。
未成年者略取の罪は被害者からの告訴がなければ起訴できない罪ですので、告訴されなければ起訴されずに解放されるかもしれません。
しかし、保護者の同意なく、安易に未成年者と会うことは、犯罪行為となりうることを十分に理解しておく必要があります。
4、未成年者略取は弁護士へ相談
未成年者略取の罪を犯してしまった場合には、逮捕され起訴される可能性があります。そのような場合には、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)身柄の解放をしてもらう
逮捕された場合には、検察官が起訴するかどうかを決めるまで、最大で23日間の身柄拘束を受ける場合があります。仮に、不起訴となったとしても、最大23日間も身柄拘束を受けてしまうと、今後の社会生活には致命的な不利益となるでしょう。
逮捕後、早期に弁護士に相談することができれば、検察官の勾留請求自体を阻止できる可能性もあります。仮に、勾留決定を受けたとしても、準抗告という手段により争うことも可能です。さらに、起訴されたとしても、保釈請求によって身柄の解放を求めることもできます。
身柄を拘束されてしまった場合には、早期に弁護士に相談するようにしましょう。 -
(2)取り調べについてアドバイスをもらう
逮捕されてから勾留がされるまでの最大72時間については、たとえ家族であっても面会することはできなくなります。また、接見禁止命令が出された場合には、勾留中も弁護人以外の面会はできません。
密室で行われる取り調べは、ただでさえ精神的負担が大きいにもかかわらず、誰とも面会できずに孤立してしまうと、その負担ははかり知れないものになるでしょう。
刑事事件に経験豊富な弁護士であれば、取り調べに対して適切なアドバイスをすることができますし、今後の流れについて説明を受けることで精神的負担が軽減すると期待できます。 -
(3)被害者と示談交渉をしてもらう
未成年者略取の罪は、親告罪とされていますので、被害者からの告訴がなければ起訴することはできません。そのため、被害者と示談を成立させることが何よりも重要です。
しかし、被害者の未成年者だけでなく、未成年者の保護者も当然感情的になっていますので、冷静に話し合いができずに示談交渉は困難となる可能性が高いといえます。
加害者やその親族が出て行っても会ってもらえないような場合であっても、第三者である弁護士が間に入って交渉をすることによって、示談がまとまる場合があります。
5、まとめ
SNSが発展し、面識のない未成年者と会うことも容易になってきました。しかし、それに伴う犯罪も増加しています。刑事事件で逮捕された場合には、何よりも初動が重要です。
刑事事件でお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士にご相談ください。被疑者・被告人の方の利益を守るために経験豊富な弁護士が、全力でサポートいたします。
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