遺言執行者とは何をする人? 遺言執行者がやることを解説
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裁判所が公表している統計資料によると、令和4年に大阪家庭裁判所に申し立てのあった遺言執行者の選任件数は、198件でした。
遺言書を作成する際には、遺言執行者を指定することが認められています。また、遺言により遺言執行者を指定する場合には、遺言者の一方的な意思表示により指定ができますので、遺言執行者の候補者の同意は必要ありません。そのため、遺言書を開封して初めて遺言執行者に指定されていることを知る方も少なくないのです。
本コラムでは、遺言執行者の役割や遺言執行者がやることについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言執行者とは|どのような役割があるのか
まず、「遺言執行者」の概要を解説します。
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(1)遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言内容の実現のために、遺産の管理など遺言執行に必要となる一切の行為をする権限を有する人のことをいいます。
遺言執行者は遺言書で指定することができるほか、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所に申し立てをすることで選任することも可能です。
遺言執行者は、すべての相続手続きにおいて必要になるわけではありませんが、遺言執行者がいることでスムーズな遺産相続を実現できる可能性が高くなります。 -
(2)遺言執行者の役割
遺言執行者の役割は、遺言内容をスムーズに執行することです。
遺言執行者は、相続財産管理や遺言執行に必要なすべての行為をする権利と義務があるため、相続人が遺言執行者の遺言執行を妨げることはできません。
遺言執行者を選任しなくても遺産相続の手続きを行うことができますが、「遺言による認知」および「遺言による相続人排除」を行う場合には、遺言執行者の選任が必要となります。① 遺言による認知
遺言により子の認知をする場合には、遺言執行者の選任が必要です。
選任された遺言執行者は、遺言内容に従い、就任後10日以内に市区町村役場に認知届を提出する必要があります。
② 遺言による相続人排除
相続人から虐待や重大な侮辱を受けたり、相続人に著しい非行があったりした場合には、相続人の相続権を剝奪することができます。
このような制度を「相続人廃除」といいます。
相続人廃除は被相続人が生前に行うこともできますが、死後に行う場合には遺言により行うことになります。
その場合には、遺言執行者の選任が必要になります。
そして、遺言執行者は遺言内容に従い、家庭裁判所に相続人廃除の申立てを行うことになるのです。
2、遺言執行者がやることとは
以下では、遺言執行者がやらなければならない手続きを解説します。
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(1)相続人への遺言内容の通知
遺言執行者に就任した人は、まず、遺言内容とともに遺言執行者に就任した旨を相続人に通知することになります。
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(2)相続人の確定
遺言執行者は、遺言者が死亡し相続が開始した後、誰が相続人になるかを調べる必要があります。
相続人は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本を取得することで調べることができます。
遺言執行者は、相続人に対して、就任通知や財産目録を送付しなければならないため、相続人調査で漏れがないようにしなければなりません。 -
(3)相続財産の調査
遺言執行者には財産目録の作成が義務付けられています。
そのため、財産目録作成の前提として、相続財産の調査が必要になります。
被相続人の遺産については、遺言書に記載されているものもありますが、遺言書作成以降に取得した財産もあるため、改めて相続財産調査を行わなければなりません。
預貯金であれば金融機関から残高証明書を取得する、不動産であれば法務局で登記事項証明書を取得するなど、財産の種類に応じた調査を行う必要があります。 -
(4)財産目録の作成
遺言執行者には、財産目録を作成して、それを相続人に交付することが義務付けられています。
民法では遅滞なく作成や交付をしなければならないとされているため、遺言執行者に就任した後は、速やかに財産調査を行って財産目録の作成に着手しなければなりません。
財産目録は、相続人にとっては、相続放棄や限定承認をするかどうかの重要な判断資料となるため、正確に作成することが求められます。
財産目録の作成にあたって遅滞や重大な過失による記載漏れなどがあった場合には、相続人から損害賠償請求を受けるリスクもあることに注意が必要です。 -
(5)遺言内容の実現に向けて手続き
上記の遺言執行者としての事務を行った後は、遺言内容の実現に向けた手続きを進めていきます。
遺言執行者の任務は遺言内容によって異なりますが、一般的な例としては以下のようなものが挙げられます。- 遺贈
- 預貯金の払い戻し
- 株式の名義変更
- 不動産の名義変更
- 子の認知
- 相続人廃除
3、遺言を執行する際に必要となるもの
以下では、遺言執行者として遺言執行をする際に必要となるものを解説します。
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(1)預貯金の払い戻しをする際に必要になるもの
遺言執行者が金融機関で預貯金の払い戻しの手続きをする際には、一般的には、以下のような書類が必要になります。
金融機関によって必要になる書類が異なりますので、遺言執行者として預貯金の払い戻しを行う場合には、対象となる金融機関に確認しながら進めていくようにしましょう。- 被相続人の戸籍謄本または除籍謄本……被相続人の死亡の事実がわかるもの
- 遺言執行者の印鑑証明書(原本)……発行後6か月以内のもの
- 遺言執行者の実印
- 遺言書(原本)……自筆証書遺言の場合は遺言書付き検認済証明書、検認調書謄本、遺言書情報証明書(遺言保管制度)が必要
- 被相続人の通帳、証書、キャッシュカード……喪失した場合には不要
- 相続手続依頼書……金融機関所定の様式のもの
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(2)不動産の名義変更の際に必要になるもの
被相続人名義の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があった場合には、不動産の名義変更(相続登記)の手続きが必要になります。
遺言執行者が不動産の登記名義の変更を行う場合には、以下の書類が必要になります。- 被相続人の戸籍謄本または除籍謄本……被相続人の死亡の事実がわかるもの
- 不動産を取得する相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票の写し
- 不動産の固定資産評価証明書
- 遺言書(原本)……自筆証書遺言の場合は遺言書付き検認済証明書、検認調書謄本、遺言書情報証明書(遺言保管制度)が必要
- 登記申請書
4、遺言執行者は拒否できる?
以下では、遺言執行者に指定された場合に、遺言執行者への就任を拒否することができるかどうかについて解説します。
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(1)遺言執行者への就任は拒否できる
遺言による遺言執行者の指定は、遺言者が一方的に行うことができます。
遺言執行には専門的な知識が必要になるものが多いため、遺言内容によっては遺言執行者に大きな負担が生じてしまうこともあります。
そのため、遺言書で遺言執行者に指定されても、遺言執行者に就任するかどうかは、本人が自由に決めることができるようになっているのです。
したがって、遺言執行者に就任するのが負担に感じるときは、遺言執行者への就任を拒否することも可能です。
遺言執行者の指定を受けた人が遺言執行者への就任を拒否する場合には、その旨を相続人に対して通知する必要があります。
また、遺言執行者に就任するかどうかはっきりしない場合には、相続人は、相当期間を定めて、遺言執行者に就任するかどうかの確答を求めることができます。
ただし、期間内に確答をしないときは、遺言執行者への就任を承諾したものとみなされることに注意が必要です。 -
(2)新たに遺言執行者が必要なときは弁護士に依頼することも可能
遺言執行者への就任を拒否した場合には、遺言執行者がいなくなるため、相続人が遺言内容の実現に向けた手続きを進めていく必要があります。
しかし、遺言による認知および遺言による相続人廃除の手続きについては、遺言執行者が不可欠です。
新たな遺言執行者が必要になるため、改めて、遺言執行者の選任申立を家庭裁判所にしなければなりません。
遺言執行者の選任申立にあたっては、候補者を立てることができます。
その際には、弁護士を新たな遺言執行者の候補者にすることも可能です。 -
(3)弁護士に相談、依頼するメリット
遺言者の意思を尊重して遺言執行者に就任したとしても、遺言内容が複雑であるために遺言執行者としてやることがよくわからない、という場合もあるでしょう。
そのような場合には、弁護士に遺言執行を依頼することをおすすめします。
遺言執行者には復任権が認められているため、自らが遺言執行者に就任したとしても、その任務を弁護士などの第三者に行わせることが可能です。
また、弁護士であれば、迅速かつ正確に相続人調査や相続財産調査を行い、遺言執行者としての必要な任務を適切に進めることができます。
さらに、相続人同士で争いがあるような場合にも、弁護士が間に入ることによってスムーズに手続きを進めることが可能です。
5、まとめ
遺言執行者がやることとしては多岐にわたります。
遺言内容によっては専門的知識が必要になる場合もあるため、自分だけでは遺言執行者としての任務を進めるのに不安があるという場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
遺言執行者に指定されてお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています