遺言執行者の役割と権限とは? 指定する際の注意点も解説

2021年10月04日
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遺言執行者の役割と権限とは? 指定する際の注意点も解説

豊中市が公表している統計資料によりますと、令和元年度の豊中市内での死亡者数は3741人でした。相続は、人の死亡によって開始されることから、豊中市内においても一定数の相続案件が生じていたものと推定されます。

将来の相続争いを防止するために、生前に遺言書を書いている方もいると思います。遺言書を書くときには、遺言執行者を定めておくべきか、遺言執行者を定めるとしたら誰にすべきかなど、遺言執行者に関して悩むこともあるでしょう。

そもそも遺言執行者とは、どのようなことをする人なのでしょうか。遺言執行者の役割や権限について正確に理解しておくことで、自分の死後の相続争いを防ぐことにもつながります。

今回は、遺言執行者の役割と権限などについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言執行者とは?

遺言執行者とはどのような役割をもった人なのでしょうか。以下では、遺言執行者の基礎知識について説明します。

  1. (1)遺言執行者とはどのような人か

    遺言執行者とは、遺言執行の目的を達成するために、遺言者に指定され、または家庭裁判所によって選任された人のことをいいます。そして、遺言執行とは、被相続人の死後に遺言の内容を実現する手続きのことをいいます。

    改正前民法では、遺言執行者は、相続人の代理人であると規定されていました。しかし、相続人から遺留分侵害額請求がされたような場合には、遺言者の意思と相続人の利益が対立することになり、遺言執行者と相続人との間でトラブルになることがありました。

    そこで、相続法改正により、遺言執行者の地位は、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」(民法1015条)と規定され、相続人の利益ではなく、遺言者の意思を実現するために任務を行うことが明らかにされました。

  2. (2)遺言執行者の役割

    遺言執行のなかには、遺言認知(民法781条2項)や推定相続人の廃除(民法839条)などのように遺言執行者による遺言執行が必要な事項がありますので、これらの事項を遺言で実現したいときには、遺言で遺言執行者を指定しておく必要があります

    また、遺言で第三者に遺贈をしたときには、相続人が遺贈義務者になりますので、遺言執行者を指定していなかったとしても、遺言の内容を実現することは可能です。しかし、第三者への遺贈に不満がある相続人が所有権移転登記に協力しないときには、遺贈を実現することが困難になります。このようなケースでもあらかじめ遺言執行者を指定しておけば、相続人の協力を得ることなく、遺言執行者が遺言の内容を実現することができます。

    さらに、金融機関で預貯金の払い戻し手続きをする際にも、遺言執行者がいないときには、相続人全員が金融機関所定の用紙に署名して、実印で押印をする必要がある場合があります。しかし、遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者単独で手続きを進めることができますので、相続人が遠方に分散しているときには非常に便利です

    このように、遺言執行者を指定しておくことによって、死後の遺言内容の実現をスムーズに行うことができるといったメリットがあります。

2、遺言執行者の職務

遺言執行者に指定された人は、以下のような流れで遺言の内容を実現することになります。

  1. (1)就任通知書の作成・交付

    遺言執行者に指定された人は、指定によって当然に遺言執行者に就任するのではなく、就任するかどうかを自ら判断することができます。遺言者の遺志を尊重し、遺言執行者に就任することを決めたときには、就任通知書を作成し、遺言書の写しとともに相続人全員に送付します

    民法改正前は、遺言執行者に就任した旨の通知を相続人に送付しなければならないという規定がなかったため、就任通知書が送付されないこともありました。しかし、改正相続法によって、遺言執行者に就任したことと遺言の内容をすべての相続人に通知することが遺言執行者の義務とされました(民法1007条2項)。

  2. (2)相続人の調査

    遺言執行者に就任した後は、遺言の内容実現に向けて準備を行っていきます。まずは、被相続人の相続人が誰であるかを調査する必要があります。遺言執行者は、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、誰が相続人となるかを確定させることになります。相続人が確定したら、相続関係説明図や法定相続情報一覧図などを作成しておくとよいでしょう。

  3. (3)相続財産の調査

    次に、被相続人の財産目録を作成するために、被相続人の財産の調査を行います。預貯金については、各金融機関に照会をし、不動産に対しては市区町村役場から名寄帳を取得するなどして被相続人の財産を明らかにしていきます。

    被相続人の財産には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれますので、すべてを漏れなく調査する必要があります。遺言書が作成されてから時間が経っているケースでは、遺言書に記載されている財産以外にも、財産が存在することがありますので、注意が必要です。

  4. (4)財産目録の作成・交付

    相続人の調査と相続財産の調査が終了したら、財産目録を作成します。財産目録の様式には特に決まりはありませんが、相続財産の内容、数量、評価額などが特定できるように記載することが重要です。

    作成した財産目録については、被相続人の遺産の内容を明らかにするために、各相続人に送付しなければなりません。

  5. (5)遺言の内容を実行

    上記の作業が終了した段階で、遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、遺言書に記載された内容に従い、相続人または第三者に財産を引き渡し、相続登記などの必要な相続手続きを行います。

  6. (6)任務完了後に相続人に報告

    遺言に記載された内容をすべて実現したときには、各相続人に対し任務完了の報告を行います。

3、遺言執行者の権限の範囲

遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法1012条1項)とされています。その具体的な権限としては、以下のようなものがあります。

  1. (1)子どもの認知

    法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもとの間に、法律上の親子関係を生じさせるためには、認知という手続きをとる必要があります。

    認知は、生前に行うことができますが、遺言によって死後に認知するということも可能です。遺言認知にあたっては、遺言執行者の指定が必要になります。遺言認知がされたときには、遺言執行者は、市区町村役場に認知届を提出することになります。

  2. (2)相続人の廃除

    被相続人が生前に相続人から虐待を受けていたなどの理由から相続人に遺産を相続させたくないと考えたときには、廃除の手続きをとることによって推定相続人を相続人から除外することが可能になります。

    相続人の廃除は、生前にも行うことができますが、遺言によって死後に廃除することも可能です。相続人の廃除が遺言書でなされたときには、遺言執行者が家庭裁判所に相続人の廃除の申し立てをすることになります

  3. (3)遺贈

    改正前民法では、遺贈を誰が履行するかについて明文の規定がなかったため、遺贈を受ける人は誰に遺贈の履行請求をすればよいかがわからない状況でした。改正法では、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」(民法1012条2項)と規定し、遺言執行者がいるときには、遺言執行者のみが遺贈の履行義務があることを明確にしました。

  4. (4)相続に関する諸手続き

    「Aの土地を長男に相続させる」という遺言を特定財産承継遺言といいます。このような遺言がなされた場合の遺言執行者の権限については、改正前民法では明文規定がなく、その権限の範囲に争いがありました。

    改正民法では、「遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」(民法1014条2項)と規定して、遺言執行者が不動産登記や動産の引き渡しができることを明確にしました。

    また、「A銀行の預金を次男に相続させる」といった特定財産承継遺言の対象が預貯金であった場合、「その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる」(民法1014条3項)と規定して、遺言執行者が預貯金の解約や払い戻しの請求ができるようになりました。

  5. (5)復任

    改正前民法では、やむを得ない事由がない限り、遺言執行者は第三者にその任務を委任することができませんでした。しかし、相続人など遺言執行に関して十分な知識を有していない方が遺言執行者に指定されることも多く、難しい法律問題を含むときには、適切に遺言執行を行うことができないこともありました。
    そこで、改正民法では、復任の要件を緩和し、遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができることになりました。

4、適切な遺言執行者を選ぶには?

遺言執行者は、遺言者の意思を実現するために、中立かつ公正に権限を行使することがその任務となります。そのため、遺言者としては、自分の死後に適切に遺言の執行を行ってもらえる人物を遺言執行者に指定しておく必要があります

相続人や受遺者を遺言執行者と指定することも法律上は可能です。しかし、遺産を多く受け取ることになる相続人や受遺者を遺言執行者として指定すると、他の相続人との間で、遺言執行者の適格性を疑われることも少なくありません。

より中立的な立場で遺言執行者の任務を遂行する人物としては、相続人全員と利害関係のない弁護士などの専門家を遺言執行者に指定しておくとよいでしょう

遺言の作成段階から弁護士に関与してもらうことで、より争いの少ない内容での遺言書の作成をサポートしてもらうことができますし、遺言書が無効になるというリスクもなくなります。また、遺言を執行する場面においても、法的見地から適切に遺言者の意思を実現することが可能になります。

遺言執行者を誰にするかお悩みのときには、遺言の作成も含めて弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。

5、まとめ

生前に遺言を残して、遺言執行者を適切に指定しておくことで、死後の相続争いをある程度回避することが可能になります。残された家族を相続争いに巻き込ませないためにも生前に十分に対策しておきましょう。

遺言書の作成や遺言執行者のことでお悩みの方はベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています