遺産相続に関する裁判の流れは? 遺産分割調停と審判
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被相続人が死亡すると、被相続人の遺産を分けるために相続人による遺産分割協議が行われます。
しかし、遺産の評価や分割方法などについて争いがある場合には、相続人同士の話し合いでは解決することができない場合があります。また、遺産分割の前提問題に争いがある場合には、それを解決しなければ遺産分割を行うことができないこともあります。
このような場合には、遺産分割調停、審判、裁判を行うことになりますが、どのような流れで手続が進行するのでしょうか。今回は、遺産相続に関する調停、審判、裁判の内容およびその流れについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産相続について裁判所で行う手続き
遺産相続について裁判所で行う手続としては、裁判、調停、審判の3種類があります。以下では、それぞれの手続の内容について説明します。
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(1)遺産分割に関する裁判とは
遺産分割に関する裁判とは、遺産分割の前提事実に争いがある場合に利用される手続です。遺産分割の前提事実に争いがある場合には、後述する遺産分割調停や審判ではその内容を取り扱うことができません。そのため、遺産分割に関する裁判で内容を確定させたうえで、遺産分割の手続を行う必要があります。
遺産分割に関する裁判には、以下のようなものがあります。① 相続人の地位や範囲に争いがある場合
相続人が遺言書を隠匿していたという場合には、相続人の欠格事由にあたりますので相続人になることはできません(民法891条5号)。遺言書を隠匿した相続人が相続欠格事由に該当することを認めているのであれば、その相続人を除いて遺産分割手続を進めることができます。
しかし、相続欠格事由に該当することを否定している場合には、相続欠格事由に該当することを裁判によって確定させなければなりません。このような場合には、相続人の地位不存在確認請求という裁判を起こす必要があります。
② 遺産の範囲に争いがある場合
被相続人が子どもの名義で預貯金口座を開設し、預金をしていた場合には、預貯金口座の名義は子どもですが、実質的には被相続人の預貯金と同視できる場合があります。相続人間で子ども名義の預貯金を遺産に含めるかどうかに争いがある場合には、遺産確認の訴えという裁判を起こす必要があります。
③ 遺言の有効性に争いがある場合
被相続人が遺言を残して死亡した場合には、遺産分割協議ではなく当該遺言書に基づいて遺産を分けることになります。しかし、遺言書を作成した当時、被相続人が認知症であった場合には当該遺言書が有効なものであるかどうかが争われることがあります。
このような場合には、遺言無効確認の訴えを起こして遺言の有効性を判断する必要があります。
④ 使途不明金の争いがある場合
被相続人の生前に、相続人が無断で被相続人の預貯金を引き出してそれを費消していた場合には、遺産分割ではなく、不当利得返還請求という裁判を起こして各相続人の相続分に応じて返還を求める必要があります。 -
(2)遺産分割調停とは
前提事実に争いがない場合は、遺産分割調停もしくは遺産分割審判を申し立てることになります。
遺産分割調停とは、相続人同士の話し合いでは遺産相続に関する争いが解決することができない場合に利用する家庭裁判所の調停手続です。遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が当事者の間に入って遺産相続に関する争いの解決に向けて調整をしてくれます。
当事者同士の話し合いでは感情的になってしまう場合であっても、家庭裁判所という場所で公平中立な調停委員が話を聞いてくれることによって、冷静な話し合いを進めることが期待できます。
遺産分割調停は、裁判や審判とは異なり話し合いの手続ですので、遺産分割調停を成立させるためには、相続人全員が遺産分割方法に納得して合意をすることが必要になります。相続人のうち1人でも反対している相続人がいる場合には、遺産分割調停を成立させることはできません。 -
(3)遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、当事者の主張や提出された証拠に基づいて、家庭裁判所の裁判官が遺産分割についての判断をする手続をいいます。遺産分割の場合、調停を経ずに、審判を申し立てることもできますが、実際は遺産分割調停が不成立となったときに、遺産分割審判を提起する流れが一般的です。
遺産分割審判は遺産分割調停とは異なり、相続人の同意がなくても裁判官が判断を下すことができるという特徴があります。
そのため、当事者が希望していた遺産分割方法とは異なる判断が下される可能性もありますので、その点も踏まえて審判手続を利用するかを判断する必要があります。
2、前提事実に争いがある場合に行う裁判の流れ
前述のとおり、相続人の間で前提事実について意見の食い違いがある場合は、まず、遺産分割の前提事実に関する裁判を提起する必要があります。具体的には、以下のような流れで進行します。
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(1)訴訟提起
遺産分割の前提事実に関する裁判を起こすには、裁判所に訴状を提出します。遺産分割の前提事実に関する裁判というと家庭裁判所をイメージする方も多いかもしれませんが、遺産分割に関する裁判は民事裁判ですので、管轄する裁判所は地方裁判所になります。
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(2)第1回口頭弁論期日の指定
裁判所に提出した訴状が受理されると、裁判所書記官によって第1回口頭弁論期日が指定され、被告に対して期日の呼出状と訴状の副本などが送達されます。
被告は、訴状の内容を確認し、反論などがある場合には、期限までに答弁書を作成して裁判所に提出をします。 -
(3)第1回口頭弁論期日
裁判所から指定された日時に原告および被告は、裁判所に出頭し第1回口頭弁論期日を行います。第1回口頭弁論期日では、当事者から提出された訴状と答弁書の陳述が行われますが、実際には、裁判官から「訴状のとおり陳述しますか?」と確認されるだけですので、提出した書面を読み上げるわけではありません。第1回口頭弁論期日では、第2回目以降の期日の日程が決められて終了となります。
なお、被告は、答弁書を事前に提出していれば第1回口頭弁論期日については、欠席することも認められています。これを「擬制陳述」といいます。 -
(4)第2回目以降の期日
第2回目以降の期日についても、当事者からの主張、反論とそれを裏付ける証拠の提出を繰り返して、争点を明らかにしていきます。裁判期日は、基本的には1カ月に1回のペースで開催されますので、争点が複雑な事案については、解決するまでの1年以上を要することも珍しくありません。
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(5)和解期日
当事者からの主張、立証がある程度出そろい、裁判官の事件に対する心証が形成されてきた段階で、裁判官から和解の打診がなされることがあります。裁判官からの和解案は、その時点での心証を踏まえた内容となっていますので、早期解決の観点から当事者双方に一定の譲歩を求める内容となっていることが多いです。
裁判官から提示された和解案に原告および被告双方が合意した場合には、和解成立となり、その時点で裁判は終了となります。 -
(6)判決
和解が成立しない場合には、その後も審理を継続して、最終的に裁判官による判決が言い渡されます。判決内容に不服がある場合には、判決を受け取った日から2週間以内に高等裁判所に控訴という不服申し立てをすることができます。
3、遺産分割調停・審判の流れ
前提事実の問題が解決した、もしくは前提事実に問題がなかった場合は遺産分割調停および審判を申し立てます。
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(1)遺産分割調停の流れ
遺産分割調停の流れは、以下のとおりです。
① 遺産分割調停の申し立て
相続人同士の話し合いでは、遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行います。遺産分割調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か当事者が合意した家庭裁判所に申し立てを行います。
② 遺産分割調停期日の指定
遺産分割調停の申し立てが受理されると、第1回調停期日の日程が指定され、相手方に期日の連絡と書類の送付が行われます。
③ 遺産分割調停期日への出頭
申立人と相手方は、裁判所から指定された日時に裁判所に行き、調停を行います。初回の調停では、調停委員と裁判官から自己紹介や調停手続についての説明がなされ、その後に当事者から調停申し立てに至った経緯などの聴取が行われます。
遺産分割調停では、基本的には、以下のような事項に沿って話し合いが進められます。
- 相続人の範囲の確認
- 遺産の範囲の確認
- 遺産の評価の確認
- 特別受益や寄与分の確認
- 遺産分割方法の話し合い
④ 調停成立または不成立
調停期日を繰り返して当事者間に合意が成立した場合には、遺産分割調停は成立となります。他方、これ以上調停期日を繰り返しても合意の成立の見込みがないと判断される場合には、調停は不成立となります。 -
(2)遺産分割審判の流れ
遺産分割審判の流れは、以下のとおりです。
① 遺産分割審判の申し立てまたは調停からの移行
遺産分割調停が不成立になった場合には、特別な申し立てをすることなく自動的に遺産分割審判に移行します。また前述のとおり、遺産分割調停の申し立てをすることなく、いきなり遺産分割審判を申し立てることも可能です。ただし、いきなり遺産分割審判の申し立てをすると当事者同士での話し合いを尽くすために裁判官の判断で調停手続に付される可能性もあります。
② 遺産分割審判期日の指定
遺産分割審判の申し立てが受理された場合および調停から審判に移行した場合には、審判期日が指定されます。当事者は、指定された審判期日までに自分の言い分をまとめた主張書面やそれを裏付ける証拠の提出を行います。
③ 遺産分割審判期日
遺産分割審判は、遺産分割調停のような話し合いの手続ではなく、書面に基づく主張立証をするという裁判に近い手続になります。そのため、自己に有利な判断をしてもらいたいという場合には、法的根拠に基づいた主張やそれを裏付ける証拠の提出が不可欠となります。
審判手続中であっても、話し合いによる解決の可能性が生じた場合には、裁判官の判断によって調停手続が行われることもあります。また、当事者間で合意が成立した場合には、その時点で審判が終了します。
④ 審判
当事者同士の話し合いで解決をすることができない場合には、最終的に裁判官が審判を下すことになります。審判では、裁判官が適当と考える遺産分割方法が言い渡されますので、必ずしも当事者が希望した内容になるわけではありません。
審判に不服がある場合には、審判を受け取った日から2週間以内に高等裁判所に即時抗告という不服申し立ての手続をとることができます。
4、遺産相続の悩みは弁護士へ相談
遺産相続に関してお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)遺産分割調停に同行しサポート
遺産分割調停は、裁判や審判とは異なり話し合いの手続になりますので、当事者でも対応が可能だといえます。しかし、慣れない場であることから自分の言いたいことを十分に伝えることができずに、自分の意見が調停手続に反映されないことがあります。
弁護士に依頼をすることによって、調停の申し立てだけでなく、実際の調停期日に同行してもらうこともできますので、初めての調停であっても安心して対応することができます。法的観点から主張が必要になった場合には、同席した弁護士からしっかりと調停委員に対して説明をしますので、安心してお任せください。 -
(2)裁判や審判などの複雑な手続も任せることができる
遺産分割の前提問題に争いがある場合には、遺産分割の前に裁判を起こさなければなりません。裁判手続は、非常に専門的かつ複雑な手続になっていますので、法的根拠に基づき適切に主張立証を行わなければ、勝てる裁判であっても負けてしまうリスクがあります。
また、遺産分割審判も裁判と同様の手続になりますので、やはり法的知識のない方では適切に対応することが難しいといえます。
裁判や審判を有利に進めていくためには弁護士のサポートが不可欠だといえます。裁判や審判手続の不適切さが原因で不利な判決や審判になってしまうことを回避するためにも、このような手続は専門家である弁護士にお任せください。
5、まとめ
遺産相続については相続人による話し合いが原則となりますが、遺産分割協議がまとまらない場合には、調停や審判の手続を利用することになります。また、遺産分割の前提事実に関して争いがある場合には、裁判を起こさなくてはなりません。
このような裁判所の手続を利用する場合には、弁護士のサポートが不可欠となりますので、その際には、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでお気軽にご相談ください。
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