持ち帰り残業は違法になる? 会社に残業代を請求できるかどうかも解説
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働き方改革の影響で、職場に残って残業を禁止する会社も増えてきています。
残業時間が減らしてプライベートな時間を増やすことができた方も多くいる一方で、自宅に帰ってからも会社の仕事を行う「持ち帰り残業」に悩まされている方も多くおられます。このような持ち帰り残業が発生している場合、会社によって労働時間の管理が行われていないため、本来なら発生しているはずの残業代が支払われていない、違法な状態になっている可能性が高いといえます。
未払いの残業代が存在する場合には、会社に対してしっかりと請求を行うことが大切です。本コラムでは、持ち帰り残業の違法性と会社への残業代請求の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、持ち帰り残業は違法?
まず、「持ち帰り残業」の概要や、持ち帰り残業が違法になる場合について説明します。
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(1)持ち帰り残業とは
持ち帰り残業とは、勤務時間中に処理できなかった仕事を、自宅やカフェなどの職場の外に持ち帰って行う残業をいいます。
リモートワークなどの普及により、職場外でも仕事が容易になったことから、近年では持ち帰り残業が増えていると考えられます。
また、働き方改革の一環で、「20時以降のオフィス消灯」や「ノー残業デー」などの取り組みが導入されたものの、長時間労働や業務負担そのものの問題が改善されていないために、持ち帰り残業を余儀なくされているという場合もあります。
このような持ち帰り残業については、労働時間として計算されていないことから、残業代の発生しないサービス残業になっている場合があります。 -
(2)状況によっては持ち帰り残業が違法になる可能性がある
① 持ち帰り残業に対して残業代が支払われない
持ち帰り残業が労働時間に含まれる場合には、会社は、その時間に相当する残業代の支払いをしなければなりません。
適正な残業代の支払いをせず、サービス残業を強制することは、残業代の未払いとして違法になります。
② 残業時間の上限規制を超える持ち帰り残業
労働基準法では、長時間労働による労働者の身体的・精神的負担を軽減するために、残業時間の上限規制を設けています。
持ち帰り残業については、休日などのプライベートの時間も仕事のために割かなければならない結果、必然的に残業時間の上限規制をオーバーしてしまうことになります。
このような残業時間の上限規制を超えるような持ち帰り残業も、違法となるのです。
2、持ち帰り残業は残業代を請求できる?
会社からの指示により持ち帰り残業をしている場合には、会社に対して残業代を請求できる可能性があります。
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(1)持ち帰り残業でも残業代請求は可能
持ち帰り残業であっても、それが労働基準法上の労働時間にあたるといえる場合には、残業代の支払いが必要になります。
残業代の請求においては、持ち帰り残業が労働基準法上の労働時間にあたるかどうかが重要になります。
具体的には、以下のような場合には、持ち帰り残業が労働基準法上の労働時間に含まれることになります。
① 会社から持ち帰り残業をするように指示があった場合
労働基準法上の労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
会社や上司から持ち帰り残業を指示されていた場合には、職場外の持ち帰り残業であっても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価することができるため、労働基準法上の労働時間に該当する可能性があります。どの程度の指示があったかにより労働時間にあたるかはケースバイケースです。
② 会社からの黙示の指示により持ち帰り残業を余儀なくされた場合
会社や上司から明示的な指示はないものの、黙示の指示により持ち帰り残業を余儀なくされた場合も、使用者の指揮命令下に置かれていると評価することができますので、労働基準法上の労働時間に該当する可能性があります。
黙示の指示による持ち帰り残業としては、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 客観的にみて定時までに終わらないような仕事量を指示された
- 労働者が持ち帰り残業をしていることを認識しながら黙認していた
- 持ち帰り残業をしなければ人事評価で不利益を受ける
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(2)持ち帰り残業を理由とする残業代請求をするための準備
会社から明示または黙示で持ち帰り残業が指示されていた場合には、会社に対して残業代請求を行うことができます。
しかし、持ち帰り残業については、一般的な残業に比べて会社の指示があったのかどうかや、どのくらいの時間残業をしたのかを把握するのが難しいところがあります。
より確実に残業代請求を行うためにも、持ち帰り残業を余儀なくされている方は、以下のような準備を進めてください。
① 会社の指示を裏付ける証拠を集める
持ち帰り残業を理由に残業代を請求するためには、会社の明示または黙示の指示があったことを労働者の側で証明する必要があります。
また、持ち帰り残業が会社から明示的に指示されている場合には、持ち帰り残業を命じたメールや口頭の指示であれば録音データなどが証拠になります。
黙示的な指示の場合には、「会社が黙認していた」ということを証明するために、以下のような証拠を用いる必要があります。
- 持ち帰り残業をすることをメールで報告
- 過大な業務量であったことを業務日報に残す
- 定時以降の社内での残業が禁止されていることを示す社内規定
- 業務上の書類やデータの持ち出しを許可した記録
② 持ち帰り残業をした時間を記録する
持ち帰り残業については、タイムカードなどで残業時間を記録できないため、残業時間の立証で苦労する可能性があります。
会社から「自宅で残業していた証拠がない」と言われないためにも、残業時間はしっかりと記録しておくことが大切です。
具体的には、以下のようなものが残業時間の証拠になります。
- 業務用のメールで開始時間と終了時間を残しておく
- パソコン画面(開始時間と終業時間がわかるもの)を写真で撮影する
- 社内サーバーにアクセスして、成果物をアップする
- 残業時間についてのメモを残す
なお、残業時間についてのメモを残す場合には、プライベートの時間や休憩時間をしっかりと区別することで、証拠としての効力がより高くなります。
3、未払い残業代を請求する流れ
会社に対して未払い残業代を請求する場合には、以下のような流れで進めていきます。
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(1)未払い残業代の証拠収集
残業をしたことおよび残業時間については、労働者の側で証明しなければなりません。
そのため、まずは、未払い残業代の立証に必要な証拠を収集します。
たとえば、パソコンのPCの起動履歴などがあれば有力な証拠になりますので、会社にPC履歴を出してもらうなどが考えられます。持ち帰り残業の場合には、一般的な残業に比べて、会社以外の場所で業務をするため証拠が残っておらず、証拠集めに苦労することもあります。
弁護士に相談しながら、必要な証拠を選別していきましょう。 -
(2)未払い残業代の金額を計算
未払い残業代の証拠を確保できたら、次は、未払い残業代の金額を計算します。
残業代を計算する際には、時間外労働時間や深夜労働時間、休日労働時間などをしっかりと区別したうえで、それぞれについて割増賃金を算定する必要があります。
残業代の計算は非常に複雑であるため、正確な金額を算定するために、専門家である弁護士に計算を依頼してください。裁判所も使っている残業代計算ソフトで計算することが一般的ですが、ソフトに対応していない労働形態の場合は手計算になることもあります。 -
(3)会社に対して未払い残業代の請求
会社に対して未払い残業代の請求をする際には、まずは会社との話し合いでの解決を図ります。
労働者側から未払い残業代の金額と計算根拠を示し、会社との合意形成に向けた話し合いを進めていきます。
会社との間で合意が成立した場合には、口約束だけで終わらせるのではなく、合意書などの書面を作成しておくことが大切です。 -
(4)訴訟提起
会社との話し合いで解決できない場合には、裁判所に未払い残業代の支払いを求める訴訟を提起します。
裁判では、労働者の側で残業をしたことおよび残業時間を証拠により立証していかなければなりません。
専門知識を持たない個人で裁判手続きを進めることは困難であるため、訴訟になった場合には弁護士に依頼してください。
4、未払い残業代請求を弁護士に依頼するメリット
未払い残業代請求を弁護士に依頼することのメリットとしては、以下のようなものがあります。
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(1)持ち帰り残業の立証に必要な証拠収集をサポート
持ち帰り残業を立証するためには、会社の指示があったことおよび持ち帰り残業の時間を証拠により立証しなければなりません。
一般的な残業であればタイムカードなどで残業時間を立証することができますが、自宅での持ち帰り残業ではそのような手段がとれないため、残業の立証が難しい可能性もあります。
弁護士に相談をすれば、持ち帰り残業の立証に必要な証拠の残し方のアドバイスを受けながら、後日に残業代請求をする際に必要な証拠を残しておきやすくなります。
また、過去の持ち帰り残業についても、弁護士が専門知識に基づいてさまざまな証拠、裁判例を組み合わせることで、持ち帰り残業を立証することが可能になります。 -
(2)会社との対応を任せることができる
未払い残業代の請求をする際には、会社との交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きが必要になります。
労働者個人でこれらの対応をすることは精神的負担も大きく、不利な条件で合意してしまうリスクもあります。
会社との交渉や法的手続きは、専門家である弁護士に対応を任せてください。
5、まとめ
持ち帰り残業であっても、会社から明示または黙示の指示によるものである場合には、労働基準法上の労働時間にあたり、会社に対して、残業代の請求をすることができます。
ただし、残業代を請求するためには、労働者の側で証拠を収集しなければなりません。
持ち帰り残業を立証することは通常の残業に比べて複雑・困難である場合が多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
会社に対して残業代を請求することを検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています