割増賃金はどんなときに発生するもの? 計算例のモデルケース

2023年08月17日
  • 残業代請求
  • 割増賃金とは
割増賃金はどんなときに発生するもの? 計算例のモデルケース

厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査地方調査 令和3年平均分結果概要」によると、事業規模5人以上の事業所における大阪府内の所定外労働時間数は、8.7時間でした。全国平均が9.7時間ですので、それと比較すると1時間ほど少なくなっています。

時間外労働、深夜労働、休日労働などをした場合には、通常の賃金に加えて所定の割増率により増額された割増賃金が支払われます。割増賃金の割増率は、どのような残業をしたのかによって適用される割増率が異なってきますので、きちんと理解しておくことが大切です。

今回は、割増賃金の基本ルールと具体的な計算方法について、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代|基本のルール

残業代とはどのような場合に支払われる賃金なのでしょうか。以下では、残業代に関する基本のルールについて説明します。

  1. (1)労働時間の基本ルール

    労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間と定めていますので、原則として法定労働時間を超えて働かせることはできません

    労働者に対して、法定労働時間を超えた労働を命じるためには、会社と労働組合(労働者代表)との間で、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。このような手続きをとらずに、法定労働時間を超えて労働をさせた場合には、残業時間に応じた割増賃金が支払われていたとしても違法です。

    なお、36協定を締結していた場合であっても、無制限に残業をさせられることはなく、残業時間の上限は、月45時間・年360時間以内が原則とされています。

  2. (2)法内残業と法外残業の違い

    残業代の仕組みを理解するには、「法内残業」と「法外残業」の違いを理解することが大切です

    法内残業とは、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内での残業のことをいいます。所定労働時間とは、会社と労働者との契約、または就業規則などによって定められている労働時間のことです。所定労働時間を超えて働いていますので、残業時間に応じて賃金が支払われることになりますが、法定労働時間の範囲内ですので割増賃金の支払いはありません。

    法外残業とは、法定労働時間を超えて行った残業のことをいいます。法定労働時間を超えた労働に対しても、労働基準法上の制限があるので、その制限内で行われなければなりません。さらに、法内残業とは異なり、通常の賃金に加えて割増賃金の支払いも必要になります。

2、割増賃金が発生するのは、どのようなとき?

割増賃金とはどのような場合に発生するものなのでしょうか。以下では、あらためて割増賃金の概要を確認するとともに、残業の種類ごとの割増率などについて説明します。

  1. (1)割増賃金とは

    割増賃金とは、労働者が時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合に、通常の賃金とは別に支払われる一定の割増率によって増額された賃金のことをいいます

    時間外労働、深夜労働、休日労働が多くなると、疲労の蓄積により、労働者の健康が害されるリスクが高くなります。そこで、時間外労働、深夜労働、休日労働を抑制する目的から、一定の割増率によって増額された割増賃金の支払いを使用者に義務付けているのです。

    このように割増賃金の支払いは、法律上の義務ですので、たとえ労働者と使用者との間で割増賃金の支払いを不要とする合意をしていたとしても、そのような合意は無効となり、割増賃金の支払いが必要になります。

  2. (2)残業時間ごとに適用される割増率

    割増賃金には、「時間外労働に対する割増賃金」、「深夜労働に対する割増賃金」、「休日労働に対する割増賃金」、「1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金」の4種類があります。それぞれの割増賃金で適用される割増率が異なっていますので注意が必要です

    ① 時間外労働に対する割増賃金
    1日8時間・1週40時間を超える時間外労働(法外労働)をした場合には、時間外労働に対する割増賃金が支払われます。この場合の割増率は、25%以上とされています。

    ② 深夜労働に対する割増賃金
    労働基準法では、午後10時から午前5時までの時間帯は、深夜時間帯とされていますので、この時間に労働をした場合には、深夜労働に対する割増賃金が支払われます。この場合の割増率は25%以上とされています。
    なお、時間外労働と深夜労働が重なっている場合には、両者の割増率がそれぞれ適用されますので、合計50%以上の割増率としなければなりません。

    ③ 休日労働に対する割増賃金
    労働基準法では、労働者に対して週に1回または4週に4日以上の休日を与えなければならないとされています。このような休日を「法定休日」といいます。法定休日に労働をした場合には、休日労働に対する割増賃金が支払われます。この場合の割増率は35%以上とされています。
    なお、休日労働に対する割増賃金の支払い対象は、あくまでも法定休日における労働ですので、週休2日制(土日休み)の会社で、土曜日または日曜日のいずれか1日出勤をしたとしても、週に1回の休みは確保されていますので、割増賃金の支払いは不要となります。

    ④ 1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金
    長時間労働の抑制を目的として、1か月60時間を超える時間外労働がなされた場合には、上記の「時間外労働に対する割増賃金」よりも割増率が引きあげられた割増賃金が支払われます。この場合の割増率は、50%以上とされています。

3、割増賃金の計算例|モデルケース

実際の割増賃金の計算は、どのようにすればよいのでしょうか。以下では、割増賃金の計算方法と具体的な計算例を説明します。

  1. (1)割増賃金の計算方法

    割増賃金を計算するためには、1時間あたりの基礎賃金を明らかにする必要があります。1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算によって求めます。

    • 1時間あたりの基礎賃金=月給÷月平均所定労働時間
    • 月平均所定労働時間=(1年間の日数-年間所定休日数)×1日の所定労働時間÷12か月


    割増賃金の計算で利用する「月給」は、会社から支払われたすべての賃金が対象となるわけではなく、労働との直接的な関係が薄い以下の手当を除外して計算をする必要があります。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    1時間あたりの基礎賃金が明らかになった場合には、以下の計算によって割増賃金を計算します。

    割増賃金
    =1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間(時間外労働、深夜労働、休日労働時間)
  2. (2)割増賃金の計算例

    では、次のモデルケースにおいて実際の割増賃金を計算していきましょう。

    (モデルケース)
    基本給20万円、職務手当3万円、通勤手当2万円、調整手当2万円の合計27万円が給料として支払われている労働者がいました。この会社の月平均労働時間は161時間であり、ある月に30時間の時間外労働をした場合の割増賃金はいくらになるでしょうか。

    (計算例)
    割増賃金の計算で利用する「月給」は、一定の手当を除外しますので、上記のケースでは、通勤手当の2万円が除外の対象となります。そのため、27万円から2万円を控除した25万円が1時間あたりの基礎賃金の計算基礎となる月給となります。

    1時間あたりの基礎賃金=25万円÷161時間≒1553円

    時間外労働に対する割増率は25%以上となりますので、上記のモデルケースにおける割増賃金は、以下のようになります。

    1553円×30時間(時間外労働)×1.25≒5万8238円

4、支払われている賃金が少なかった場合

会社から支払われている賃金が少ないと感じる場合には、以下のような対応が必要になります

  1. (1)割増賃金の計算を行い実際の支給額と比較する

    会社から支払われた残業代が少ないと感じる場合には、未払いの残業代がある可能性があります。そのため、まずは、未払いの残業代の有無を確かめるために、割増賃金の計算をします。割増賃金の計算にあたっては、以下のような資料が必要になりますので、しっかりと集めるようにしましょう。

    • 労働契約書
    • 労働条件通知書
    • 就業規則
    • 賃金規程
    • 給与明細
    • タイムカードの写し、出勤簿


    残業代計算は、非常に複雑な計算となりますので、個人では正確な計算をすることが難しいという場合には、弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。弁護士であれば、正確な残業代計算をしてくれるだけでなく、残業代計算に必要となる証拠収集のサポートもしてもらえます。

  2. (2)実際の支給額が少ない場合には会社に対する残業代請求をする

    計算の結果、実際の支払われている残業代が本来の残業代よりも少ないという場合には、会社に対して、未払いの残業代請求を行っていきます。残業代請求をする場合には、まずは会社との交渉によって未払いの残業代の支払いを求めていきますが、会社が交渉に応じない場合には労働審判や裁判を起こす必要があります。

    労働者個人では、不慣れな交渉や裁判手続きを適切に進めていくのは難しいこともありますので、弁護士に依頼をして手続きを進めていくことおすすめします。弁護士に依頼をすれば会社との対応はすべて弁護士に任せることができますので、精神的負担を大幅に軽減することができます

    なお、残業代請求には、3年の時効がありますので、会社に対する残業代請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

時間外労働、深夜労働、休日労働をすれば、通常の賃金に加えて一定の割増率によって増額をした割増賃金が支払われます。会社から支払われた給料が思ったよりも少ないという場合には、未払いの残業代がある可能性がありますので、まずは、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでご相談ください

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