過労死ラインとは? 80時間、100時間…長時間残業の規制は
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過労死ラインとは、過重労働と過労死との因果関係が認められやすくなる残業時間の目安を言います。過労死ラインは、発症2~6か月前を平均して80時間以上残業していることとするのが一般的な見方です。また、発症1か月前に100時間以上残業している場合にも因果関係が認められる可能性があります。
令和2年8月には、月130時間の残業をし、自殺した男性の遺族が勤め先を訴えた訴訟で、大阪地裁で和解が成立しました。
このような長時間残業は、法律で規制されていないのでしょうか。
過労死ラインや過労死についてベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、過労死ラインとは
過労死ラインとは、病気や精神障害が起き、自殺につながりやすくなると考えられている時間外労働・休日労働時間のことです。具体的には、発症する1か月前から発症時点までの残業時間が100時間、もしくは発症する2~6か月前から発症時点までの1か月あたりの残業時間が80時間とされています。
ただし、これはあくまで目安で、超えていなければ病気や精神障害と業務の関連性が認められないわけではありません。連続勤務が長く続いている、パワハラが常態化している環境だと、過労死ラインを超えていなくても関連性が強いとみなされやすくなります。
●法規制について
時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間と定められており、それを超えて労働者を働かせた場合、残業を命じた管理職や社長、および会社は、労働基準法第32条違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、そのときに残業代を支払っていなかった(サービス残業をさせていた)場合は、労働基準法第37条にもなります。
2、過労死の定義
過労死は、過労死等防止対策推進法によれば、業務における過重な負荷によって脳血管疾患や心臓疾患を原因とする死亡、あるいは業務における心理的な負荷によって精神障害を原因とする自殺です。なお、この法律は、「過労死等」として、死亡に至らずとも業務によって生じた脳血管疾患・心臓疾患・精神障害も含め、さまざまな規定をしています。
では、具体的にどんな業務が過重な負荷で、どんな業務が心理的な負荷とみなされるのでしょうか。厚生労働省が定める労災認定基準を元に、それぞれ解説します。
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(1)「業務における過重な負荷」の判断基準
厚生労働省によれば、業務における過重な負荷は、「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の3種類に分かれます。
「異常な出来事」とは、発症する前日から発症直前までに発生した、著しい精神的・身体的負荷をもたらす異常な事態のことです。たとえば極度の恐怖をもたらす人身事故やその処理活動、酷暑ながら水分補給ができないような労働環境などが該当します。
「短期間の過重業務」とは、発症の1週間前から発症前までにおいて、身体的あるいは精神的に、日常業務に比べて特に過重な負荷を生じさせる仕事です。たとえば、1週間連続で長時間拘束される、休日がないまま不規則な勤務時間で仕事をさせられるなどは、「短期間の過重業務」とみなされる可能性が高いでしょう。
「長時間の過重業務」とは、発症の1~6か月前から発症前にかけて、身体的あるいは精神的に負荷をかけ続けるような仕事です。前章で紹介した過労死ラインと、勤務形態や作業環境などとあわせて総合的に判断されます。
厚生労働省では、これらの判断要素と、業務以外による加重負荷や基礎疾患の程度を加味した上で、業務上で起きた疾病なのかそうでないのか(労災として認定するかどうか)を総合的に判断します。なお、対象となる疾病には、脳血管疾患なら脳内出血やくも膜下出血、心臓疾患なら心筋梗塞や狭心症などが挙げられています。 -
(2)「業務における心理的な負荷」の判断基準
業務における心理的な負荷を判断するときに焦点となるのは、まず厚生労働省が定める「特別な出来事」に該当する出来事があるかどうかです。
「特別な出来事」とは、業務中に極度の苦痛あるいは労働が困難になるほどの怪我をした、セクハラを受けた、発症の1か月前から発症直前までに160時間超の時間外労働をしたなどが該当します。この「特別な出来事」がある場合、心理的負荷の総合評価(心理的負荷がどの程度かを表す指標)が「強」とされます。
一方、「特別な出来事」がない場合、業務を通じて起きた出来事に対して、厚生労働省が定める「具体的出来事」と照らし合わせながら、心理的負荷の総合評価を行います。たとえば配置転換や転勤は「中」、いじめや暴行は「強」です(ただし、内容によって変わります)。「具体的出来事」が複数ある場合は、内容の関連性を考慮して、全体的な評価が下されます。
なお、労災認定の対象となるのは、心理的負荷が「強」と判断された場合のみです。そこに、自分に関する出来事や住環境の変化といった業務以外の心理的な負荷、精神障害の既往歴、アルコール依存状況などの評価が加わり、それらを総合して業務による精神障害であるとみなされれば労災認定が下りる、という流れです。
なお、精神障害にはうつ病をはじめとする気分障害、神経症性障害、ストレス関連障害などがあります。
3、36協定と過労死ライン
第1章で、上限規制を超えると使用者は処罰される可能性があるとご説明しました。これに大きく関係しているのが、36(サブロク)協定です。この章では、36協定の解説をした上で、具体的にどの程度働かせると法律に抵触するのかご説明します。
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(1)36協定とは
36協定とは、企業が労働者を、法定労働時間を超えて時間外労働させるときに、労働組合と必ず結ばなければならない労使協定です。労働基準法第36条に基づく労使協定であるため、36協定と呼ばれています。
労使協定には、労働基準監督署に届け出が必要なものがあり、この36協定のほか、変形労働時間制に関する労使協定や事業場外みなし労働時間制に関する労使協定などが該当します。一方、フレックスタイム制、年次有給休暇の計画的付与などは労働基準監督署への届け出は必要ありません。 -
(2)働き方改革関連法で設けられた上限規制と36協定の指針
働き方改革関連法は、働き方のニーズの多様化や少子高齢化を受けて、各個人が柔軟な働き方ができることを目指して成立された法律です。正式には、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。
この法律によって設けられたのが、時間外労働の上限時間です。すべての企業は、36協定を結んでいようとも、原則として月45時間・年360時間を超える時間外労働を労働者にさせてはいけません。また仮に超えない場合でも、残業時間は最小限に留めること、残業時の業務範囲を明確にしておく必要があります。
また、同法律では例外的に、臨時的特別な事情に限り月45時間・年360時間の上限規制を超えて働かせることが可能とはなっています。具体的には予算や決算業務、繁忙期の対応、大規模なクレーム処理などのときのみで、業務上やむを得ないときといった曖昧な理由は認められません。また、事情が認められたとしても、月100時間未満、複数月平均80時間、年720時間の上限を守る必要があります。
このようなことから、過労死ラインを下回る時間外労働状況でも法律に違反している可能性はあるます。
4、長時間残業にお悩みの方は弁護士へ
過労死ラインを超える、またはそれに近い時間働いているのであれば、ひとりで悩まずに第三者に相談することをおすすめします。労働基準監督署に相談するのもひとつですが、早めに今の状態から脱したいのであれば弁護士への依頼がいいでしょう。
労働基準監督署はあくまで企業に対して労働環境の改善を促す機関で、個人のトラブル解決を目的として動くわけではありません。一方、弁護士なら労働者本人の悩みを解決する手だてを打つために、さまざまな手続きを行います。たとえば、長時間残業を立証するために必要な証拠を代わりに集めたり、会社に対して代理で直接交渉したりします。
また、もし長時間残業をしているのにもかかわらず、思ったよりも給料が少ないと感じている場合は残業代が正しく支給されていない可能性があります。弁護士なら、本来もらえるはずの残業代を計算し、会社に請求することが可能です。ただ、残業代の請求権には時効(2年ないしは3年)があるので、心当たりがあるなら早めに動いたほうがいいでしょう。
5、まとめ
本記事で紹介した過労死ラインや厚生労働省の労災認定は、あくまで基準にしか過ぎません。病気や精神障害と仕事が関係しているかどうかは、労働環境やそのほかの状況によって異なります。ですので、少しでも不調を感じている方は、自分の場合は当てはまらないと判断せずに、労働者を守る専門機関を頼ってみてください。
ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスには、労働環境改善のためのアドバイスや代理交渉ができる弁護士が所属しています。円満な解決に結びつくサポートをいたしますので、会社との関係がこじれるのではないか、自分の立場が危うくなるのではないかと心配な方も安心してご相談ください。
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