法内残業と法外残業の違いとは? 支払われている残業代は正しい金額?

2020年09月16日
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法内残業と法外残業の違いとは? 支払われている残業代は正しい金額?

2020年度の大阪府の最低賃金は、964円とされており、東京、神奈川に次いで全国3位の金額です。最低賃金が上がることによって、残業をした際の残業代にも影響がでることになります。

現代では働き方が複雑になってきており、それに伴い残業代の計算も複雑になっています。給与明細をみて残業代が支払われていることはわかってはいても、どのような計算で支払われているかということを正確に理解している方は少ないでしょう。

今回は、支払われている残業代が正しい金額であるかどうかについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代はいくら? 残業代を知るための基礎知識

残業代の正確な金額を知るためには、残業代計算に関するいくつかの基礎知識を知っておく必要があります。以下では、正確な残業代を知るための基礎知識について、詳しく解説します。

  1. (1)法外残業と法内残業の違い

    残業について法律上は「法外残業」と「法内残業」のふたつに区別されます。法外残業と法内残業の大きな違いは、割増賃金の支払い義務があるかどうかという点です。

    法外残業とは、労働基準法で定められている法定労働時間を超えた残業のことをいいます。労働基準法では、法定労働時間として1日8時間または1週40時間と定めており、労働者が法定労働時間を超えて労働をした場合、会社は労働者に対して割増賃金の支払いが必要です。

    一方、法内残業とは、会社が決めた所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内の残業のことをいいます。所定労働時間とは、会社が法定労働時間の範囲内で、就業規則や労働契約によって定めた労働時間のことです。

    法内残業では、たとえ残業をしていたとしても、労働基準法の法定労働時間の範囲内の労働ですので、割増賃金の支払い義務はありません。ただし、法内残業では割増賃金の支払い義務はないとはいっても、残業時間に応じて、通常の労働時間1時間あたりの賃金を支払う必要があります。

  2. (2)基礎賃金の出し方

    残業代を計算するためには、1時間あたりの基礎賃金を算出しなければなりません。通常の月給制の場合には、1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式で算出します。

    1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月あたりの平均所定労働時間


    たとえば、月給30万円、1日の所定労働時間が8時間、1年間の勤務日数が246日の場合、以下のように計算します。

    30万円÷(8時間×246日÷12か月)≒1829円

    つまり、1時間あたりの基礎賃金は、1829円になります。

    なお、以下の手当については、基礎賃金計算の際の月給には含みませんので注意してください。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    ただし、手当の支払われ方によっては、基礎賃金に算入される場合もあるので、詳しくは弁護士に相談してください。

  3. (3)法外残業と割増賃金

    法外残業については、労働基準法に定められた割増率によって計算した割増賃金を支払わなければならないとされています。

    通常の法外残業の割増賃金は、1時間あたりの基礎賃金を1.25倍した金額になります。

2、あなたの働き方は残業代の支払いに当てはまる?

最近では会社も従業員の事情に配慮し、柔軟な働き方を導入してきています。育児や介護などさまざまな事情を抱える従業員にとっては、非常にありがたい制度ですが、反面、残業しているかどうかがわかりにくくなっていることもあるでしょう。

そこで、通常とは異なる労働時間制がとられる代表的な制度について、それぞれの残業に対する考え方をみていきましょう。

  1. (1)フレックスタイム制の場合

    フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が毎日の始業時刻と終業時刻を自由に決めて勤務するという制度です。たとえば、1か月を清算期間と定め、総労働時間を160時間と定めた場合、1日8時間または週40時間を超えて働いていたとしても、総労働時間の範囲内では、残業にはなりません。

    フレックスタイム制において残業となるのは、総労働時間を超えて労働した場合です。その場合でも、総労働時間を超えて法定労働時間の範囲内である場合を「法内残業」、さらに法定労働時間を超えて残業をした場合を「法外残業」といいます。

  2. (2)変形労働時間制の場合

    変形労働時間制とは、フレックスタイム制と同じように、一定の期間の所定労働時間を平均して法定労働時間の範囲内とすることで、1日または1週ごとの法定労働時間を超える労働を許容する制度です。

    この制度は、閑散期と繁忙期の差が大きく、繁忙期には法定労働時間を超えて労働させる必要があるような企業で採用されています。フレックスタイム制との違いは、1日の労働時間があらかじめ決まっているかどうかという点です。

    この変形労働制において残業となるのは、1日の所定労働時間を超えて労働した場合です。そのうち、以下のいずれかに当てはまっていれば、法外労働となります。

    • 1日について、所定労働時間が8時間を超える場合はその時間を超えた時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
    • 1週について、所定労働時間が40時間を超える場合はその時間を超えた時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)
    • 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①②で時間外労働となる時間を除く)


    ただし、会社から変形労働時間制だと言われていたとしても、実際に法律上変形労働時間制が認められるには、厳格な要件が決まっています。要件を満たしていなければ、通常通り1日単位で割増賃金を計算することになります。

  3. (3)裁量労働制の場合

    裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、一定の時間労働したものとみなして労働時間を計算する制度です。裁量労働制は、仕事の進め方や時間配分を細かく指示するのが難しい専門業務(記者、デザイナー、大学教授、弁護士)や、企画業務に従事する部署の仕事で導入されています。

    裁量労働制では、みなし労働時間を8時間と定めた場合、1日5時間働いたとしても、10時間働いたとしても、8時間労働したものと扱われます。そのため、みなし労働時間を法定労働時間内で設定した場合には、たとえ法定労働時間を超えて労働したとしても残業代は発生しません。

    裁量労働制では、みなし労働時間が法定労働時間を超える時間と定められた場合に、その超える部分が法外残業にあたります。

3、この場合はいくらになる? ケースごとの残業代

ここまで残業しているかどうかわかりづらい制度についての「法内残業」と「法外残業」について解説をしてきました。次は、それぞれの制度について具体例を挙げながら、どのくらいの残業代を請求することができるかについて解説します。

  1. (1)通常の労働時間制の場合

    ●具体例
    1時間あたりの基礎賃金が2000円で、土日休み、所定労働時間は1日7時間という労働者がいたとします。
    この労働者は、ある週に以下のとおり働きました。この場合の法内残業代と法外残業代はいくらになるでしょうか?

    月曜日  7時間
    火曜日  7時間
    水曜日  8時間
    木曜日  9時間
    金曜日  9時間


    ●計算方法
    この労働者の場合、水曜日から金曜日までの7時間を超え8時間までの1時間分は、所定労働時間を超えていますので「法内残業」になります。また、木曜日と金曜日は8時間を超えた1時間分が法定労働時間を超えていますので「法外残業」です。

    したがって、残業時間としては、所定外労働である「法内残業」が3時間、法定外労働である「法外労働」が2時間となります。

    これらを考慮すると、この労働者の残業代の計算は、以下のとおりです。

    法内残業:2000円×3時間=6000円
    法外残業:2000円×2時間×1.25(割増率)=5000円
    残業代:6000円(法内残業)+5000円(法外残業)=1万1000円
  2. (2)フレックスタイム制の場合

    ●具体例
    1時間あたりの基礎賃金が2000円で、清算期間は1か月ごと、という労働者がいたとします。
    この労働者は、清算期間が28日(法定労働時間の総枠は160時間)、総労働時間が155時間と決められた月に170時間働きました。この場合の法内残業代と法外残業代はいくらになるでしょうか?

    ●計算方法
    この労働者の場合、155時間を超え160時間までの5時間分は、あらかじめ定められた総労働時間を超えていますので「法内残業」になります。また、160時間を超えた10時間分が法定労働時間の総枠を超えていますので「法外残業」です。

    したがって、残業時間としては、所定外労働である「法内残業」が5時間、法定外労働である「法外労働」が10時間となります。

    これらを考慮すると、この労働者の残業代の計算は、以下のとおりです。

    法内残業:2000円×5時間=1万円
    法外残業:2000円×10時間×1.25(割増率)=2万5000円
    残業代:1万円(法内残業)+2万5000円(法外残業)=3万5000円
  3. (3)変形労働時間制の場合

    ●具体例
    1時間あたりの基礎賃金が2000円で、土日休み、変形労働の対象期間は1か月ごとという労働者がいたとします。
    1か月が28日間(法定労働時間の総枠は160時間)、所定労働時間が表1のとおり158時間と定められた月に、表2のとおり163時間働きました。この場合の法内残業代と法外残業代はいくらになるでしょうか?

    (表1:所定労働時間)

        1週目 2週目 3週目 4週目
    月曜日 8時間 8時間 6時間 10時間
    火曜日 8時間 8時間 8時間 8時間
    水曜日 8時間 8時間 9時間 8時間
    木曜日 10時間 6時間 9時間 6時間
    金曜日 8時間 6時間 10時間 6時間


    (表2:実際の労働時間)

        1週目 2週目 3週目 4週目
    月曜日 8時間 8時間 6時間 10時間
    火曜日 8時間 8時間 8時間 8時間
    水曜日 8時間 9時間 9時間 8時間
    木曜日 10時間 7時間 10時間 6時間
    金曜日 8時間 7時間 11時間 8時間


    ●計算方法
    この労働者の場合、「法内残業」は、2週目木曜日と金曜日の1時間分ずつ合計2時間分となります。また、「法外残業」は、2週目の水曜日の1時間分(1日あたり8時間を超えている部分)、3週目の金曜日の1時間分(1週あたり40時間を超えている部分)と4週目の金曜日の1時間分(法定労働時間の総枠の160時間を超えている部分)の合計3時間分です。

    したがって、残業時間は、「法内残業」が2時間、「法外労働」が3時間となります。このことから、この労働者の残業代は、以下のとおりに計算します。

    法内残業:2000円×2時間=4000円
    法外残業:2000円×3時間×1.25(割増率)=7500円
    残業代:4000円(法内残業)+7500円(法外残業)=1万1500円

4、未払い残業代の請求は弁護士へ相談

給与明細をみて、「未払い残業代がありそうだな」と思ったら、弁護士への相談がおすすめです。弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  1. (1)複雑な残業代の計算を一任できる

    通常の労働時間制でも、残業代の計算は複雑です。フレックスタイム制や変形労働時間制が採用されている会社では、その計算はさらに複雑なものになります。

    また、長期間残業代が未払いの場合には、その金額は高額になる場合もあり、退職後就職活動をする間の資金としても、正確に計算した残業代をもらうことが大切でしょう。

    弁護士に依頼することで、複雑な残業代の計算を一任することができます。

  2. (2)会社との交渉を一任できる

    一般的に、会社と比べて労働者は低い立場にあるといわれています。労働者個人が会社と対等な立場で未払い残業代の交渉をするということは困難を伴う作業です。会社を退職した後も未払いの残業代の交渉のために会社に顔を出さなければならないということは、その後の再出発を阻害することにもなりかねません。

    弁護士に未払い残業代の請求を依頼することで、会社との交渉から、裁判までサポートを受けることができます。

5、まとめ

働き方改革の影響もあり、現在ではさまざまな働き方が導入されています。通常の労働時間制ではない働き方の場合、きちんと残業代をもらっているのか、正確な金額はどうやって計算したらよいかを法律の素人が判断することは非常に難しいことです。

未払いの残業代請求でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています