タイムカードを改ざんした従業員に対する法的対応と注意点

2020年11月27日
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タイムカードを改ざんした従業員に対する法的対応と注意点

大阪府の調査によると、令和2年6月における大阪府内の企業(事業所規模5人以上)の総実労働時間は135.3時間で、前年同月比4.3%の減少となりました。所定外労働時間は7.3時間で、前年同月比28.4%の減少です。

最近では新型コロナウイルスや働き方改革の影響によって、労働時間の減少傾向が顕著に見られます。

さて、タイムカードを従業員に打刻させることによって勤怠管理をしている場合、使用者側は従業員に対して、タイムカードを正確に打刻するよう指導する必要があります。

しかし、なかには不正の手段を用いてタイムカードを改ざんし、本来よりも多くの残業代をせしめようとする不届きな従業員が存在することも事実です。また、部下の残業を隠すために上司がタイムカードを改ざんしているケースも見られます。

こうしたケースは、労務管理の観点から大きな問題があります。タイムカードの改ざんをした従業員に対しては厳正に対処する必要がありますし、またタイムカードの改ざんを未然に防ぐための措置を講ずることも重要です。

この記事では、タイムカードの改ざんを発見した場合の対処法や注意点、およびタイムカードの改ざんを未然に防ぐための対策などについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、タイムカードの改ざんは詐欺罪に該当する可能性がある

従業員が実際の労働時間を正しく反映せず、不正な手段を用いてタイムカードを改ざんし、より多くの残業代を受け取ろうとした場合、従業員の行為は詐欺罪(刑法第246条第1項)に該当する可能性があります。

詐欺罪は、他人を騙して財物の交付を受ける行為について成立します。

上記の従業員の行為は、残業代を多く受け取るという目的(=不法領得の意思)の下、会社に対して、実際の労働時間とは異なるうその労働時間を申告するものです。この従業員のうそに会社が騙され、従業員に対して本来よりも多くの残業代を支払った場合、従業員の行為に詐欺罪が成立します。

従業員によるタイムカードの改ざん(不正打刻)は、このように犯罪にも該当し得る悪質な行為であり、また会社に対して与える実害も看過できません。そのため、会社の法務・コンプライアンス・人事などの担当者としては、このような改ざん行為には厳正に対処する必要があります。

2、上司の指示でタイムカードの改ざんが行われていた場合の企業側のリスクとは?

従業員が残業代を水増しするためにタイムカードを改ざんするケースでは、問題は比較的単純です。

しかし、逆に上司が部下の残業代を少なく見せようとして、従業員に過少申告をさせる方向でのタイムカード改ざんの指示を出しているケースもあります。このような場合には、会社は以下のような労務紛争のリスクを抱えてしまうため、一刻も早くやめさせなければなりません。

  1. (1)残業代の未払いが発生する

    従業員がタイムカードの改ざんにより労働時間を過少申告していた場合、本来であれば会社は従業員に対して、より多くの残業代を支払わなければならなかったことになります。

    仮に複数の従業員についてこのような過少申告が認められる場合、集団での請求に発展するケースも考えられ、その場合は会社の資金繰りが厳しくなってしまうことにもなりかねません。

    従業員による労働時間の過少申告を黙認すると、後々のトラブルになりかねないため、改ざんされない仕組みの導入や実態把握を進める必要があります。

  2. (2)上司から部下へのパワハラや強要罪に当たり得る

    上司が部下に対して、タイムカードの改ざんを指示したうえでサービス残業を強要しているとすれば、職務上の優越的な関係を背景として行われるパワハラに該当する可能性が高いでしょう。

    また、上司が部下に対して、指示に従わなければ不利益な取り扱いをすることを告知して脅迫しているような悪質なケースでは、刑法上の強要罪に該当する可能性もあります(刑法第223条第1項)。

    このような上司によるパワハラ・犯罪行為を放置している会社であることが他の従業員や世間に知られてしまえば、従業員の集団離職や売り上げの減少などにつながりかねません。

  3. (3)労働基準監督署への告発や訴訟を招く

    残業代の未払い・パワハラなどについては、被害者である従業員が労働基準監督署に告発をしたり、会社を相手に訴訟などを提起したりする可能性があります。

    この場合、会社は従業員に対して損害を補償しなければならない可能性が高いことはいうまでもありません。それに加えて、労働基準監督署の調査や訴訟などに対応するためには、社内リソースを消費し、かつ外部弁護士を雇う費用などを負担する必要があります。

    このように、労務管理を怠ると、余計な出費を強いられる事態に発展する可能性があるのです。

3、従業員によるタイムカードの改ざんが行われた場合の対応方法は?

会社の法務・コンプライアンス・人事担当者などが、従業員によるタイムカードの改ざんを発見した場合の対処法について解説します。

  1. (1)口頭での注意を行う

    対象の従業員についてタイムカードの改ざんが問題になったのが初めて、かつ改ざんの程度も軽いものである場合には、口頭での注意にとどめ、本人の反省を促す方法も考えられるでしょう。

    会社としても、従業員に対して何らかの処分や請求をする場合は大ごとになるため、事前に周到な記録の調査や準備が必要になります。

    口頭での注意であれば、比較的簡単に行えるほか、職場における人間関係などに大きな影響を与えることなく問題を解決できる可能性があります。

  2. (2)懲戒処分をする

    タイムカードの改ざんについて、以前も注意したにもかかわらず繰り返していたり、あまりにも大幅な改ざんが行われていたりするケースでは、懲戒処分を行うことも検討すべきでしょう。

    ただし、いきなり懲戒解雇をしてしまうと、後から解雇無効を求めて従業員から訴えられた場合に、会社にとって必ずしも有利な結果が得られない可能性があります。

    懲戒処分を行う場合には、就業規則などの定めに従い、戒告・減給・降格などを段階的に行っていくことが得策です。

  3. (3)残業代の返還請求をする

    タイムカードの改ざんにより残業代が水増しされていた場合、水増し分については本来、会社が従業員に対して支払う必要がなかったことになります。したがって、会社は従業員に対して、不当利得または不法行為に基づき、水増し分の残業代を返還するよう請求することが可能です。

    ただし、仮に訴訟に発展した場合、どの範囲が水増し分であるかの立証責任は会社にあります。そのため、会社は従業員の過去の勤務実態を調査しなければならず、請求金額によっては費用倒れに終わってしまう可能性もあるでしょう。

    また、水増し分の残業代を請求するとなれば、従業員との関係悪化は避けられません。従業員が退職済みであればあまり問題はありませんが、引き続き勤務している場合には、労働意欲をそぐことにつながる可能性もあります。

    実際に会社が、タイムカードを改ざんした従業員に対して水増し分の残業代の返還請求をするかどうかは、さまざまな要素を総合して決定する必要があるでしょう。

4、タイムカードの改ざんを未然に防ぐ方法は?

タイムカードの改ざんについて、実際に行われてから事後的に対処するのはかなり大変です。そのため、未然に改ざんを予防できるならば、それに越したことはありません。

以下では、タイムカードの改ざんを防ぐための方法について解説します。

  1. (1)社員教育を通じて改ざんの違法性を周知・啓発する

    タイムカードの打刻は、どうしても従業員の任意・良心に任せるという部分が排除しにくい側面があります。そのため、タイムカードを正確に打刻するように社員教育を行うことは非常に重要です。

    特に、タイムカードの改ざんは詐欺罪に当たる可能性があること、懲戒処分の対象となること、水増し分の残業代を返還するよう求められる可能性があることなどについて、注意喚起をするのが有効でしょう。

  2. (2)不正ができない最新の勤怠管理システムを導入する

    最新の勤怠管理システムには、タイムカードの改ざんがしにくい仕組みを導入しているものもあります。

    たとえば、打刻に従業員が保有するICカードを必要としたり、本人所有のスマートフォンなどから打刻する仕組みとしたりすることで、本人以外の打刻を防ぐシステムなどが考えられます。

    導入コストとの兼ね合いもありますが、長期的に見れば勤怠管理のコスト削減にもつながる可能性があるので、検討してみる価値はあるでしょう。

5、まとめ

タイムカードの改ざんによる残業代の水増しは、詐欺罪にも該当し得る重大な違法行為です。また逆に、上司の指示によってタイムカードの改ざんが行われ、残業代の過少申告が行われているケースも、労務管理上大いに問題があります。

このようなタイムカードの改ざんを見つけたら、会社としては厳正に対処しなければなりません。とはいえ、従業員に対してどのような処分を下すかについては、労働基準法その他の労働法の規制も踏まえつつ、慎重に決定する必要があります。

もし従業員によるタイムカードの改ざんを発見した場合は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士にご相談ください。

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