年金分割の手続きを忘れた…後から申請できるの? 離婚で注意したいこと

2022年03月31日
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年金分割の手続きを忘れた…後から申請できるの? 離婚で注意したいこと

大阪府豊中市が公表している人口動態に関する統計書によると、令和2年の豊中市内の離婚件数は640件でした。年金分割は、離婚時に請求するものですので、毎年一定数の年金分割の請求が行われているものと考えられます。

離婚時の年金分割には期限があることをご存じでしょうか? 離婚後は、引っ越しや子育てなどで忙しくて、年金分割の手続きをしなければならないとわかっていても、つい後回しにしてしまいがちです。

しかし、年金分割の期限を過ぎてしまうと年金分割を請求することができなくなりますので、婚姻期間が長い夫婦の場合には、将来もらうことができる年金に大きな影響が及ぶことになります。そのため、これから離婚する方やすでに離婚をしたという方は、年金分割の期限についてよく把握したうえで、早めに手続きをとるようにしましょう。

今回は、年金分割の期限や手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、年金分割の請求期限

年金分割は、いつまでに請求しなければならないのでしょうか。また、年金分割の請求をするにはどのような手続きが必要になるのでしょうか。以下で詳しく説明します。

  1. (1)年金分割とは

    年金分割制度は、夫婦が離婚をした場合に、婚姻期間中における保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれが自分の年金にすることができるという制度です。年金分割には、合意分割と3号分割という2つの制度があります。

    ① 合意分割
    合意分割とは、夫婦の合意または裁判によって定められた分割割合で、婚姻期間の厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)を分割する制度です。合意分割は、夫婦の2人からの請求によって年金分割の手続きを行います。

    ② 3号分割
    3号分割とは、国民年金第3号被保険者であった方からの請求によって、厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)を2分の1の割合で分割する制度です。夫が会社員、妻が専業主婦という夫婦が離婚をした場合には、この3号分割が行われます。
    3号分割は、合意分割のように夫婦2人からの請求ではなく、第3号被保険者であった方が手続きをすることができます

  2. (2)年金分割の請求期限は2年

    年金分割の請求期限は、離婚をした日の翌日から2年です。請求期限である2年を経過してしまうと原則として年金分割を請求することができなくなってしまうので注意が必要です。

    年金分割は、離婚をすれば当然に分割されるというものではなく、年金分割の種類に応じた手続きが必要となります。3号分割であれば、第3号被保険者が請求することができますので、忘れていてもすぐに手続きをすることができます。しかし、合意分割の場合には、夫婦で分割割合の合意をしなければなりませんので、一定の時間を要することになります。

    2年という期限はあっという間に過ぎてしまいますので、年金分割をする場合には、離婚後すぐに手続きを行うようにしましょう。

2、期限経過後に請求できるケース

年金分割の請求期限は、原則として2年ですが、分割請求期限の特例によって2年を経過していても年金分割を請求することができるケースがあります。

  1. (1)分割請求期限の特例とは

    以下のケースに該当する場合には、その日の翌日から起算して、6か月を経過するまでであれば年金分割を請求することができます。

    1. ① 離婚から2年を経過するまでに年金分割の按分割合を定める審判を申し立て、本来の請求期限が経過後、または本来の請求期限日前の6か月以内に審判が確定した場合
    2. ② 離婚から2年経過するまでに年金分割の按分割合を定める調停を申し立て、本来の請求期限が経過後、または本来の請求期限日前の6か月以内に調停が成立した場合


    すなわち、離婚をした日の翌日から2年を経過する前に年金分割の按分割合を定める調停または審判の申し立てをすることによって、調停または審判で結論が出るのが年金分割の請求期限である2年を経過したとしても、結論が出た日(調停の成立日・審判の確定日)の翌日から6か月の間は、年金事務所に年金分割の請求をすることができます

  2. (2)年金分割の按分割合を定める調停または審判

    合意分割をする場合には、年金分割割合を定めなければなりません。まずは、当事者同士の話し合いによって年金分割割合を定めることになりますが、話し合いで分割割合の合意ができない場合には、家庭裁判所に年金分割の按分割合を定める調停または審判を申し立てることになります。

    年金分割に関する争いについては、調停前置主義の適用はありませんので、調停手続きを経ることなく、いきなり審判を申し立てることも可能です。調停の場合には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをしなければなりませんが、審判の場合には申立人の住所地を管轄する家庭裁判所にも申し立てができますので、相手が遠方に住んでいるなどの場合には、審判の申し立ての方が申立人にとってはメリットがあるといえます。

    ただし、審判の申し立てをしたとしても裁判所が職権で調停に付す可能性もありますので注意が必要です。

3、年金分割は早急な対応が必要

年金分割をするためには、以下のような手続きが必要となります。準備しなければならない書類も多いため、離婚後は速やかに対応することが必要となります。以下では、年金分割に関する具体的な手続きについて説明します。

  1. (1)情報通知書の請求手続き

    年金分割をする場合には、まずは「年金分割のための情報通知書」という書類を取得します。年金分割のための情報通知書とは、夫婦それぞれの標準報酬総額、年金分割の対象となる期間、按分割合の範囲などが記載された書類です。

    年金分割のための情報通知書は、夫婦のどちらか一方が請求できますのでお近くの年金事務所に請求をしましょう。

  2. (2)年金分割のための情報通知書の受領

    年金分割のための情報通知書は、請求から約3~4週間で日本年金機構から送られてきます。離婚前であれば、請求した方だけに交付されますが、離婚後に請求した場合は、請求した方以外にも交付されることになります。

  3. (3)話し合いによる合意または裁判手続き(合意分割の場合のみ)

    合意分割をするには、年金分割の割合を定める必要があります。まずは、夫婦が話し合いによって合意を目指しますが、合意の形成が困難な場合には、家庭裁判所に対し、年金分割の按分割合を定める調停または審判を申し立てます。離婚前であれば、離婚調停や離婚裁判で年金分割の按分割合を定めます。

    調停、審判、裁判手続きでは、年金分割の割合は50%と定められるのが一般的です。

  4. (4)年金分割の請求手続き

    最寄りの年金事務所において年金分割の改定請求を行います。その際に必要となる書類は以下のとおりです。

    ① 合意分割
    • 標準報酬改定請求書
    • 年金手帳または基礎年金番号通知書
    • 戸籍謄本などの婚姻期間を明らかにできる資料
    • 自分と元配偶者の生存を証明することができる資料(戸籍謄本、住民票など)
    • 年金分割の合意をした公正証書、調停調書、審判書などの書類
    • 運転免許証などの本人確認ができる書類


    合意分割の方法は、原則として夫婦がそろって年金事務所に行く必要がありますが、例外的に年金分割の合意を公正証書、調停調書、審判書でした場合には、どちらか一方だけで手続きをすることができます。

    ② 3号分割
    • 標準報酬改定請求書
    • 年金手帳または基礎年金番号通知書
    • 戸籍謄本などの婚姻期間を明らかにできる資料
    • 自分と元配偶者の生存を証明することができる資料(戸籍謄本、住民票など)
  5. (5)「標準報酬改定通知書」の受領

    年金事務所に年金分割の分割改定請求をすると、按分割合に基づいて、当事者それぞれの標準報酬の改定が行われます。そして、当事者それぞれに対して「標準報酬改定通知書」が送られ、年金分割の手続きは完了となります。

4、年金分割、養育費などの相談は弁護士へ

年金分割や養育費など離婚に関する問題でお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)離婚手続きの負担を軽減することができる

    離婚の手続きを進めるにあたっては、配偶者との話し合いは避けて通ることができません。離婚に至る夫婦はただでさえ険悪な雰囲気になることが多いにもかかわらず、お互いが顔を合わせて話し合いをしなければならないとなると感情的になってしまいスムーズな話し合いを進めることが困難となります。

    このような場合には、弁護士に依頼をすれば、弁護士が代理人として相手との交渉をすべて進めることができます。話し合いで解決することができなければ、調停、審判、裁判といった法的手続きによって解決することもできます。少しでも離婚手続きの負担を軽減するためにも弁護士の利用を検討するとよいでしょう。

  2. (2)有利な条件で離婚をすることが期待できる

    離婚をする際には、年金分割だけでなく、親権、養育費、面会交流、慰謝料、財産分与などさまざまな内容を決めなければなりません。これらの条件に関しては、離婚に関する知識と経験がなければ適切な条件を見定めることは難しいといえますので、弁護士のサポートが不可欠となります。

    養育費、慰謝料、財産分与などの金銭面で納得できる条件で離婚をすることができれば、離婚後の経済的な不安も軽減するといえますので、まずは弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

離婚後は忙しくて年金分割の手続きを忘れていたという方も少なくありません。2年という期限内に手続きをしなければ、将来もらうことができる年金が減ってしまうなどの不利益がありますので、早めに手続きをすることが大切です。

年金分割などの離婚に関する問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています