財産分与を請求したら「使ってしまった」と言われたときとるべき対応
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大阪府が公表している「平成30年人口動態調査の結果」によると、平成30年度の大阪府全体の離婚件数は、1万6243件で、豊中市の離婚件数は、629件でした。離婚件数が昔に比べて増加しているのは、離婚に対するハードルが下がってきたこともあるのかもしれません。
離婚にあたっては、親権者や養育費、慰謝料など決めなければならない項目がたくさんあり、財産分与もその一つです。離婚時の財産分与として、婚姻生活中に築いた財産をきちんと分与してもらうことが、離婚後の再出発にも重要となります。
ただ、別居後しばらくしてから離婚をするという場合には、別居時に存在していた財産を使われてしまい、離婚するときにはなくなっていたということも少なくありません。
そのようなケースでは、財産分与を求めることはできないのでしょうか? 今回は、財産分与を請求したら「使ってしまった」と言われたときとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、財産分与として請求できる財産の範囲
財産分与としては、どのような財産が対象となるのでしょうか? まずは、財産分与の基礎知識について解説します。
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(1)財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が離婚したときに、離婚をした一方の者が他方の者に、財産の分与を求めることをいいます(民法768条1項)。
妻が専業主婦で、夫がサラリーマンという家庭では、夫婦の財産形成は、主に夫の収入を基礎にしていることがほとんどです。もし財産分与という制度がなかったら、離婚時に夫からは、「俺が稼いだお金だからお前には渡さない」などと言われ、妻には何も残されないということになるおそれがあります。
夫は、妻の協力があったからこそ、仕事に集中し、お金を稼ぐことができたのに、これではあまりに不公平な結果となります。
このような不公平を解消するために、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を「共有財産」と認め、共有財産から一定の財産給付を求めることを可能にしたのが財産分与の制度なのです。 -
(2)財産分与の対象となる財産
夫婦の財産には、共有財産と特有財産があります。財産分与の対象となるのは、共有財産の部分です。財産分与の対象となる共有財産には、主に以下のようなものがあります。
①現金・預貯金
現金や預貯金については、婚姻期間中に形成されたものであれば、共有財産として財産分与の対象となります。ただし、財産分与の対象は、婚姻期間中に夫婦の協力により形成した部分に限られますので、親の相続でもらったお金や独身時代に貯めた預貯金などは対象外です。
②株式や投資信託などの有価証券
株式や投資信託などの有価証券は、婚姻期間中に購入したものであれば財産分与の対象です。もっとも、婚姻前に購入したものが、婚姻後に値上がりしたとしても、夫婦の協力によって価値が増加したということはできませんので、これは原則として財産分与の対象外となります。
③不動産
夫婦のどちらの名義であるかを問わず、婚姻期間中に購入した不動産については、財産分与の対象となります。不動産は住宅ローンがある場合が多く、不動産の財産分与では、住宅ローンの負担や、両親から援助を受けて購入した場合の分け方などが問題となりやすいでしょう。そのため、不動産が財産分与に含まれている事案については、比較的長期化する傾向にあるといえます。
④生命保険
生命保険などの保険についても財産分与の対象となります。ただし、保険金が対象となるわけではなく、財産分与の基準時における解約返戻金相当額が対象となります。
⑤退職金
退職金についても財産分与の対象となる場合があります。
すでに退職金が支払われているのであれば、当然に財産分与の対象となりますが、退職金がまだ支払われていない場合には、将来退職金を受け取ることができる見込みがある場合に限り、財産分与の対象となります。 -
(3)財産分与の対象とならないもの
独身時代に貯めた財産や夫婦の協力とは無関係に婚姻中に築いた財産は、「特有財産」として、財産分与の対象とはなりません。具体的には、以下のものが挙げられます。
- 親から相続した財産
- 独身時代の現金・預貯金
- 別居後に取得した財産
- 住宅購入時に親から受けた援助金
2、共有財産を使ってしまったと言われたら
別居中の夫と離婚するときに財産分与を請求したら、夫から「そんなお金は使ってしまったから渡すお金はない」と言われる場合があります。
そのようなとき、財産分与として請求することはできなくなってしまうのでしょうか。
財産分与は、いつの時点の財産を基準に分けることになるのか、解説していきます。
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(1)財産分与はいつの時点の財産を基準にするのか?
財産分与は、夫婦で協力して築いた財産を分ける制度です。そのため、一般的には、夫婦の協力関係が終了した時点、すなわち別居時までに築いた財産を対象とすることになります。
たとえば、別居時に夫婦の共有財産として預貯金1000万円があったとして、別居後に、夫が浪費してしまい、財産分与を求めたときには残高が200万円しかなかったとします。
このようなケースでも、財産分与では、別居時の財産を基準としますので、妻は、別居時の1000万円を基準として、夫に対して財産分与を求めることが可能です。 -
(2)基準時以降の財産の減少を防ぐには
財産分与の基準時は、別居時ですので、別居時以降に財産が減少したとしても基本的には問題ありません。
しかし、「基本的には」と表現したのには理由があります。財産分与の計算の時点では、別居時を基準として金額を計算することで問題はありませんが、現実に請求するときに問題となることがあります。
上記の事案では、別居時を基準にすれば妻は500万円を財産分与として請求することが可能です(財産分与割合を2分の1として計算)。しかし、実際に残っている財産が200万円しかない場合には、500万円を現実に取得することが困難になってしまいます。
つまり、権利があっても現実に回収できないという事態に陥ってしまう場合があるのです。
このような場合には、相手による財産の処分を防ぐためにも、財産の保全措置(保全処分の手続き)を検討する必要があります。
保全処分の手続きは3種類あり、それぞれ意味合いや効力などが異なりますが、かんたんにいえば、預貯金や不動産などを勝手に贈与・売却したり、引き出したりして減らさないよう、それらの行為を禁止するものです。
保全処分の手続きを行っておくことで、離婚成立時の財産分与として認められる権利を損なうことなく、財産を回収することができます。
3、隠し財産の調査方法
正確に財産分与の額を計算するためには、お互いが持っている財産をすべて明らかにしなければなりません。しかし、相手がどのような財産を持っているのかについてすべて把握している方は少ないでしょう。
相手が隠している財産を調査する方法として考えられる手段は、以下のものになります。
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(1)別居前に調査
別居する前であれば、相手の通帳や郵便物などから、どこの金融機関に口座を有しているか、どこの証券会社と取引があるのか、ということを知ることができる場合があります。まだ別居をしていないのであれば、配偶者と同居中に調べられる範囲で調査をしてみるとよいでしょう。
ただ別居後は、相手の自宅にこっそりと忍び込むことはできませんので、すでに別居をしている方にはあまり有効な手段とはいえません。 -
(2)弁護士会照会
弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠などを収集するために官公庁や企業などの団体に照会をする制度のことをいいます。
弁護士会照会を利用することで、相手の隠し財産を調査することができる場合があるため、弁護士に相談してみましょう。
もっとも、弁護士会照会は回答を拒否したとしても罰則があるわけではありませんので、照会先の団体によっては、個人のプライバシーを理由として回答を拒否される場合もあります。 -
(3)調査嘱託
調査嘱託とは、裁判所が当事者からの申し立てを受けて、官公庁や企業などの団体に対し一定の調査を求める、情報の開示を求める制度のことをいいます。
弁護士会照会で回答を拒否されたとしても、裁判所からの調査嘱託には回答することが多いため、有効な手段といえるでしょう。
ただし、調査嘱託は、裁判所の手続きの中で利用できるものですので、任意の交渉では利用することはできません。
4、弁護士に相談すべきケース
財産分与が問題となるケースでは、以下のような複雑な手続きが必要になる事案が多く含まれます。
そのため、財産分与で正当な利益を実現したいと考える方は、弁護士への相談がおすすめです。
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(1)保全処分を検討すべき事案
すでに説明したとおり、別居後に財産の処分がなされる可能性がある場合には、相手による財産の処分を防止しなくてはなりません。そのために行う財産を保全する措置が、保全処分の手続きです。
保全処分の手続きは、どのような財産を対象にするか、高額な保証金の納付など検討すべき項目が多数あり、自分自身ですべて行うのは難しい手続きであるといえます。また、すでに処分をされてしまった後では、保全処分は意味を成しません。
そのため、別居から離婚するまでに時間がかかるというケースでは、早い段階で弁護士に相談し、アドバイスを求めることがよいでしょう。 -
(2)財産の調査や評価が複雑な事案
財産分与の対象となる隠し財産の調査や、財産の評価については、高度な専門知識が必要となります。
適切な財産調査や評価をし、きちんと財産分与で財産を分けてもらうことが離婚後の再出発にとって、何よりも大事なこととなります。財産分与が問題となる事案については、弁護士に相談をしてからすすめるのがよいでしょう。
5、まとめ
今回は、別居後に財産を使ってしまった相手にも財産分与を請求することができることを解説しました。
財産分与には、いつの時点の財産を基準とするかという基準時の問題の他にも、財産の評価の方法、評価の時点はいつかなどさまざまな問題が生じるものです。そのため、適正に財産分与を受けるためには、専門家のサポートが不可欠となります。
財産分与でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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