あおり運転が厳罰化! 妨害運転罪の罰則や定義を弁護士が解説

2020年10月07日
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あおり運転が厳罰化! 妨害運転罪の罰則や定義を弁護士が解説

近年、悪質な「あおり運転」による被害が多発したことで、あおり運転への処罰が厳罰化されました。不適切な行為をすると警察に逮捕される可能性もあります。

大阪府内では令和2年8月、道路交通法違反(あおり運転)の疑いで、男性が書類送検されたとの報道がありました。

今回はあおり運転がどのように厳罰化されたのか、あおり運転をして交通事故を起こしたらどういったリスクが発生するのか、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、あおり運転の罰則が創設された

これまで、あおり運転には明確な罰則がありませんでした。しかし、令和2年6月30日に施行された改正道路交通法により、あおり運転を意味する犯罪として「妨害運転罪」が定義され、これまであいまいとなっていたあおり運転行為や罰則が明確化されました。

まず、一般的にいうあおり運転とはどのようなものなのか、また、妨害運転罪の新設にいたった背景について詳しく見ていきましょう。

  1. (1)あおり運転とは

    あおり運転とは、必要以上に暴力的な方法で対象車両に強いプレッシャーをかける運転です。たとえば以下のようなケースが、一般的に、あおり運転に該当します。

    ●車間距離を詰める
    後方車両が必要以上に車間距離を詰めて前方車両へプレッシャーをかけます。

    ●幅寄せをする
    側方から必要以上に対象車両へ詰めより、プレッシャーを与えます。

    ●危険な追い越し
    追い越し禁止場所や左側から追い越す、幅寄せをしながら追い越しをして急に前に割り込むなどの行為です。

    ●前方や後方で蛇行運転する
    対象車両の前方で蛇行運転をして進路を妨害したり、後方を蛇行運転してプレッシャーを与えたりします。

    ●急に前に割り込んで減速、停車する
    側方から直前に割り込んできて急減速したり停車したりする行為です。対象車両は急ブレーキを強いられます。

    ●狭い道路で前方に立ちふさがる
    進路を妨害する行為です。高速道路で前方に立ちふさがる場合もあります。

    ●クラクションやパッシングで威嚇する
    不必要にクラクションを鳴らしたりパッシングしたりして、対象車両を威嚇します。

  2. (2)妨害運転罪とは

    これまで、上記に挙げたようなあおり運転は、危険・悪質なものとして考えられてきました。しかし、あおり運転を直接規制する法律がないことから、警察は、暴行罪や道路交通法違反などの規定を適用して、加害者を取り締まっていたのです。

    そのようななか、あおり運転による死傷事故が相次いで発生したことを受け、政府はあおり運転を定義する罪の新設を行いました。令和2年6月30日に施行された改正道路交通法により、あおり運転の類型が定義され、それらの運転行為に適用される「妨害運転罪」が創設されたのです。

2、妨害運転罪の対象となるあおり運転行為10類型と罰則

改正道路交通法において「妨害運転罪」として処罰されるのは、以下の10のあおり運転行為です。

詳しく見ていきましょう。

  1. (1)妨害運転罪で処罰される10個の行為

    妨害運転罪が適用されるあおり運転は以下のとおりです。

    ●通行区分違反
    センターラインからはみ出す場合や逆走する場合などです。

    ●急ブレーキ禁止違反
    あおり運転では、対象車両の直前に割り込んで急ブレーキをかけるケースが多々ありますが、そういったケースは急ブレーキ禁止違反となります。

    ●車間距離保持義務違反
    後ろから不必要に車間距離を詰めてあおると、車間距離不保持として処罰対象になります。

    ●進路変更禁止違反
    側方から無理やり割り込む場合などです。割り込んだ後急ブレーキをかけると急ブレーキ禁止違反にもなります。

    ●追越し違反
    道路交通のルールでは、追い越しは右側からしなければなりません。左側から追い越すと追い越し方法の違反となります。また右側からの追い越しであっても危険な方法で行うと追い越し違反とされます。

    ●減光等義務違反
    あおり運転でパッシングによる威嚇行為をすると、処罰対象になります。

    ●警音器使用制限違反
    不必要にクラクションを鳴らして相手を威嚇すると、警音器使用制限違反となります。

    ●安全運転義務違反
    幅寄せなどの行為は安全運転義務違反となります。

    ●高速道路での最低速度違反
    高速道路で最低速度より減速すると処罰対象になります。あおり運転では、対象車両の前に割り込んで急減速するケースなどが該当します。

    ●高速道路での駐停車違反
    高速道路上では、基本的に駐停車してはなりません。対象車両の前に割り込んで停車するとこの義務に違反します。

  2. (2)妨害運転罪の罰則と点数

    改正道路交通法では、妨害運転罪の罰則が2種類設けられています。

    ●基本的な罰則
    他の車両の進行を妨害する目的で上記の10類型のあおり運転を行うと「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」が科されます(道路交通法117条の2の2)。
    また、違反点数は25点で、免許取り消しとなって2年の欠格期間が科されます。

    ●特に危険な行為に対する刑罰
    高速道路上で他の車両を駐停車させるなど、特に危険性の高い行為をした場合には「5年以下の懲役または100万円以下の罰金刑」が科されます(道路交通法117条の2)。
    違反点数は35点となり、免許取り消しとなって3年の欠格期間が科せられます。

    このように、道路上で危険なあおり運転をすると交通事故を起こさなくても非常に重い刑罰が適用される可能性があるので、決してしてはなりません。

3、あおり運転で相手を死傷させるとどうなるのか

あおり運転をすると、交通事故が発生する危険も高まります。交通事故を起こして、相手を死傷させてしまった場合、ドライバーにはどのような罪が適用されるのでしょうか?

  1. (1)自動車運転処罰法が改正された

    実は道路交通法改正によるあおり運転厳罰化に合わせて、交通事故を起こしたときに適用される「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」も改正されました。自動車運転処罰法は、人身事故の加害者を処罰するための法律です。

    今回の改正により、故意や故意に匹敵する極めて重大な過失によって人身事故を起こした加害者へ適用される「危険運転致死傷罪」のパターンが追加(自動車運転処罰法2条5号、6号)されました。以下のあおり運転で交通事故を発生させ相手を死傷させた場合には「危険運転致死傷罪」が成立することとなります。

    人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(自動車運転処罰法2条4号)


    車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のもの)の前方で停止するなどの行為(自動車運転処罰法2条5号)


    高速自動車国道または自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止するなどの行為をして、対象車両に停止や徐行させる行為(自動車運転処罰法2条6号)
  2. (2)危険運転致死傷罪の罰則

    危険運転致死傷罪の罰則は、被害者がけがをした場合と死亡した場合とで異なります。

    ●被害者がけがをした場合
    被害者がけがをした場合「危険運転致傷罪」が成立します。罰則は15年以下の懲役刑です。

    ●被害者が死亡した場合
    被害者が死亡した場合「危険運転致死罪」が成立します。罰則は1年以上20年以下の懲役刑です。

  3. (3)あおり運転で交通事故を起こしたときの対処方法

    もしも交通事故を起こしてしまったら、以下のように対応してください。

    ●被害者を救護
    まずは被害者を救護しなければなりません。交通事故の加害者には「救護義務」が課されており、救護せずにその場を去ると「救護義務違反(ひき逃げ)」となり非常に重い刑罰が適用されます。

    ●警察を呼ぶ
    事故を起こしたら、必ずすぐに警察を呼びましょう。警察への報告も交通事故加害者の義務です。

    ●二次被害を防止する
    後続車による二次被害を防ぐため、必要に応じて事故現場をある程度片付ける、三角表示板を置く、などの対応を行いましょう。

    ●実況見分の対応をする
    警察が到着したら実況見分に立ち会い、事故の説明をします。
    もし、交通事故の加害者として現行犯逮捕されたら弁護士接見を要請して弁護人として選任しましょう。逮捕されなかった場合でも、刑事弁護や交通事故に詳しい弁護士を探して対応を相談してみてください。

4、あおり運転をしてしまったら、弁護士へ相談

あおり運転で交通事故を起こしたときには弁護士によるサポートが必要です。

  1. (1)刑事事件への対応

    あおり運転をすると、交通事故の際に刑事事件になる可能性が高くなります。逮捕されずに済んだとしても、在宅のまま起訴され有罪となるリスクが発生するでしょう。

    あおり運転をしたり、交通事故を起こしたりしたときは、早期の段階で弁護士に依頼してください。被害者との示談が成立すれば不起訴処分にしてもらえる可能性も高くなります。

    逮捕された場合には、なおさら弁護人による支援が必要です。身柄解放や刑罰の軽減のため、早急に弁護人を選任しましょう。

  2. (2)被害者との示談交渉への対応

    あおり運転で交通事故を起こしたら、被害者へ損害賠償をしなければなりません。保険に入っていれば保険会社が示談に対応しますが、保険に加入していない方の場合、自分で示談交渉をしなければなりません。
    また保険が適用されるとしても、早急に示談を進めるには弁護士が対応した方が良い状況があります。弁護士に示談交渉を依頼すればスムーズに解決できる可能性が高くなるので、示談交渉が難航しそうであれば早急にご相談ください。

  3. (3)状況に応じたアドバイス

    被害者が死亡してしまった場合、入院した場合、後遺障害が残った場合、過失割合について争いがある場合など、交通事故の対応方法は状況によって大きく異なってきます。
    自分では適切な判断が難しい場合でも、弁護士に相談すれば正しい対処方法を知ることができて、不利益を防止しやすくなります。

5、まとめ

あおり運転に対する処罰規定が新設され、今後この規定による逮捕事例も発生してくるものと思われます。

万が一、あおり運転をしてしまったら、お早めに弁護士までご相談ください。ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスでは、お困りのみなさまへ向けて良質なリーガルサービスを提供しております。まずは、ご連絡ください。

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