遺族年金の不正受給はどんな罪? 逮捕されることはあるのか
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平成28年12月、亡くなった母親の年金を受け取り続けた容疑でアルバイトの男性が逮捕されました。母親は平成23年3月に死亡していましたが、生きているかのように装って、2か月ごとに振り込まれる年金合計約110万円を不正に受給していたとのことです。
この事例のように、年金の不正受給はいずれ発覚し、厳しい対応を受ける事態を招きます。本コラムでは、年金の不正受給のうち「遺族年金」に注目して、遺族年金の不正受給で科せられる罪や刑罰、刑事事件に発展した場合の捜査や刑事手続きの流れを豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、遺族年金の不正受給とは?
平成29年に会計検査院が実施した調査によると、遺族年金の受給資格を失った約1000人に対して日本年金機構が約18億円を過払いしていたことが発覚しました。過払いが発覚した時点で、すでに約8億円分は時効が成立しており返還が見込めない状況だったとのことです。
「遺族年金」とはどのような制度なのか、受給できる人の要件や不正受給の典型的なケースをみていきましょう。
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(1)遺族年金とは?
「遺族年金」とは、家族を養っている人が亡くなったとき、遺族の生活を補償するために支給される年金のことをいい、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
亡くなった人が自営業者など国民年金の加入者だった場合は遺族基礎年金の対象です。遺族基礎年金は、家族構成によって支給額が変動します。
亡くなった人がサラリーマンなど厚生年金の加入者だった場合は遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も支給されます。遺族厚生年金は、厚生年金の加入年数やその期間の収入によって支給額が変動する仕組みです。 -
(2)遺族年金を受給できる人の要件
遺族年金を受給できる人の要件は、遺族年金の種類によって異なります。
【遺族基礎年金を受給できる人】- 死亡した人によって生計を維持されていた子どもをもつ配偶者
(年収850万円・所得額655万5000円未満) - 死亡した人によって生計を維持されていた子ども
(18歳になって最初に迎える3月末まで、2級以上の障害者の場合は20歳まで)
遺族厚生年金は、ここで挙げる順位のうち上位の人が受給できます。
上位の人が受給している場合、下位の人は受給できません。【遺族厚生年金を受給できる人】- 第1順位
・妻(30歳未満で子どもがいない場合は5年間のみ)
・夫(55歳以上で支給開始は60歳から)
・子ども(18歳になって最初に迎える3月末まで) - 第2順位
・父母(55歳以上で支給開始は60歳から) - 第3順位
・孫(18歳になって最初に迎える3月末まで) - 第4順位
・祖父母(55歳以上で支給開始は60歳から)
- 死亡した人によって生計を維持されていた子どもをもつ配偶者
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(3)遺族年金の不正受給とは?
遺族年金の不正受給にあたる典型的なケースは「再婚」です。
たとえば、夫・妻・18歳未満の子どもの3人家族で、生計を維持している夫が亡くなった場合は、遺族基礎年金・遺族厚生年金のいずれの場合でも妻・子どもは受給資格をもちます。
ところが、夫の死後に妻が別の男性と再婚した場合、夫との親族関係がなくなるため、遺族年金の受給資格は失われます。
本来、再婚などによって受給資格を失った場合は、その旨を年金事務所に届け出なければなりませんが、これを秘したまま遺族年金を受給するケースが多いようです。
そのほか、遺族年金の受給権が失権する要件に照らすと、次のようなケースが考えられます。- 受給権者が死亡した事実を隠す
- 受給権者が親族ではない人の養子になった事実を隠す
- 子どもが離縁した事実を隠す
- 内縁関係になり生計を共にする異性がいるが隠す
また、正確には遺族年金にはあたらないものの、国民年金の加入者が死亡した場合で遺族基礎年金の受給権を得られない人を救済するために支給される「寡婦年金」を不正受給するケースも存在します。
寡婦年金とは、亡くなった人が受給できるはずだった老齢基礎年金の4分の3をその妻に支給する制度です。
婚姻生活が10年以上ある場合は受給対象となりますが、内縁関係・事実婚関係の場合でも支給されます。
2、遺族年金の不正受給で問われる罪
遺族年金の不正受給は犯罪です。
受給資格がない、あるいは受給資格を失っているのにこれを申告せずに受給する行為は、刑法の「詐欺罪」にあたります。
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(1)刑法の詐欺罪に問われる
刑法第246条の「詐欺罪」は、他人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪です。
本来は受給資格がないのに積極的に偽って不正に受給する行為はもちろん、すでに受給資格を失っていることを知っているのにあえて申請せず受給し続ける行為も「だました」と評価され、詐欺罪に問われます。 -
(2)詐欺罪の刑罰
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
罰金の規定はないため、有罪になればかならず懲役が下されるという点において、非常に重い犯罪だといえます。
また、国民年金法第111条は「偽りそのほか不正な手段により給付を受けた者」について3年以下の懲役または100万円以下の罰金を定めていますが、同条では「刑法に正条があるときは刑法による」と付記しているため、刑法の詐欺罪が優先され、厳しく罰せられます。 -
(3)不正受給分の返還を求められる
遺族年金の不正受給分は、過去にさかのぼって返還を求められます。
返還請求の時効は5年なので、長期にわたる不正受給であれば、先に紹介した不正受給の発覚事案のようにすでに時効が成立しているケースもあるでしょう。
しかし、発覚時点で5年以内のものは返還請求の対象となり、さらに返還されるまでの間は利息も生じるため、多額の返還となる可能性があります。
3、刑事事件に発展した場合の流れ
遺族年金の不正受給が発覚して刑事事件に発展した場合は、どのような流れで刑事手続きが進むのでしょうか?
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(1)身柄事件の場合
逮捕によって被疑者の身柄が拘束された状態で捜査が進む事件を「身柄事件」と呼びます。
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、送致されて検察官の段階で24時間以内の合計72時間を上限とした身柄拘束を受けます。
さらに、検察官による勾留請求が認められると、最長で20日間の身柄拘束を受けるため、逮捕・勾留を合計すると23日間にわたって社会から隔離されてしまいます。 -
(2)在宅事件の場合
被疑者の身柄を拘束せずに捜査が進む事件を「在宅事件」といいます。
警察からの出頭要請を受けて指定期日に警察署へと出向き、取り調べなどの捜査を受けます。
当日の捜査が終了すれば帰宅できるだけでなく、原則として取り調べの途中でも自由に退去が可能です。
身柄事件のような時間制限はないので、仕事などの都合にあわせて負担の少ないかたちで取り調べが進みます。一方で、時間制限がないからこそ何度も警察署に呼び出されることもあり、不安な時間が長く続く可能性もあります。 -
(3)検察官が起訴すれば刑事裁判になる
身柄事件では勾留が満期を迎える日までに、在宅事件では警察が捜査を終えて事件を送致したのちに、検察官が「起訴」または「不起訴」を決断します。
検察官が起訴すれば刑事裁判になり、不起訴になれば事件は終結します。この点は、身柄事件でも在宅事件でも同じです。
ただし、身柄事件では起訴されるとさらに被告人としての勾留を受けるため、保釈が認められない限り身柄拘束が続きます。
在宅事件で起訴された場合は「在宅起訴」と呼ばれ、引き続き身柄拘束を受けないまま指定期日に裁判所へと出頭して審理を受けます。
刑事裁判の最終回となる結審の日には判決が下されます。身柄事件だから厳しく、在宅事件だから軽くなるという区別はありません。
犯罪が計画的であり悪質性が高い、被害額が高額である、社会的に強く非難されるべき事案であるといったケースでは、厳しく罰せられるおそれが高まるでしょう。
4、遺族年金の不正受給で容疑をかけられたら弁護士に相談を
遺族年金の不正受給を疑われるケースのなかには、必要な手続きを忘れていたため受給資格を失っているのに支給が続いていた、受給資格が喪失することを知らなかったといったケースもあるでしょう。
返還請求を受けたが金銭的な事情で返還できず困っていたところ、警察に呼び出されて取り調べを受けるということもあるかもしれません。遺族年金の不正受給は刑法の詐欺罪にあたり、悪質であると判断されれば厳しく罰せられます。
一方で、手続きを忘れていた、制度を誤解していたなど、悪質性の低い事案では検察官が不起訴とする可能性も高いでしょう。
逮捕・刑罰を回避するには、悪質な事案ではないことを証明する証拠を集めて主張する必要があります。不正受給の容疑をかけられた段階で弁護士に相談し、逮捕・刑罰の回避に向けたサポートを求めましょう。
5、まとめ
遺族年金は、生計の柱である人を亡くしてしまった遺族の生活を支えるための重要な社会保障制度のひとつです。不正受給が発覚すれば、返還を求められるだけでなく、厳しい刑罰を科せられる危険があります。
逮捕や刑罰を回避するためには、弁護士のサポートが欠かせません。不正受給の容疑をかけられたら、ただちにベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスへご相談ください。
詐欺事件をはじめとした刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、厳しい処分を回避するために全力でサポートします。
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