薬物を規制している法律は? 種類や行為を弁護士がわかりやすく解説

2021年08月05日
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薬物を規制している法律は? 種類や行為を弁護士がわかりやすく解説

大阪府警察が公表している薬物事犯の検挙人員の統計によると、令和2年度に薬物事犯で検挙された人員は、1557件でした。検挙された薬物の種類としては、覚せい剤(1071件)が最も多く、大麻(455件)、麻薬・向精神薬(30件)、あへん(1件)の順となっています。前年度と比較すると減少傾向にありますが、毎年1600件前後の検挙数があることがわかります。

薬物による犯罪は、若者を中心に薬物乱用が広まっており、再犯率も非常に高い犯罪類型です。テレビニュースなどでも有名芸能人が薬物の使用や所持によって逮捕・起訴されたということが流れていますので、誰でも手を出す可能性のある身近な犯罪ともいえるかもしれません。

大阪府警察の統計でもわかるように禁止されている薬物にはさまざまな種類があり、薬物の種類ごとに規制する法律が異なってきます。

今回は、薬物を規制する法律ごとに禁止される行為や具体的な刑罰などをべリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、薬物を禁止している法律とその行為

薬物を禁止している法律としては、どのようなものがあるのでしょうか。以下では、薬物四法と呼ばれる規制薬物の使用・所持などを禁止する代表的な法律について説明します。

  1. (1)覚せい剤取締法

    覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するために、覚せい剤および覚せい剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受、使用を取り締まる法律です(覚せい剤取締法1条)。

    覚せい剤とは、フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及びその塩類などのことをいいます(覚せい剤取締法2条)。覚せい剤を摂取することにより、多幸感および自信感が増大し、作業能力が向上するほか、眠気や食欲を抑えるなどの効果があります。しかし、攻撃的行動、幻覚、妄想等のほか、頻脈、高血圧、発汗、高熱、瞳孔散大などを引き起こし、最悪の場合には死に至ることもあります。

    令和2年度版犯罪白書によると、令和元年における覚せい剤取締法違反の検挙人員は、8730人であり、他の禁止薬物の検挙人員と比較しても最も多い数字となっています。

  2. (2)大麻取締法

    大麻取締法とは、大麻取扱者以外による大麻の所持、栽培、譲り受け、譲り渡し、研究のための使用を禁止する法律です

    大麻とは、大麻草およびその製品のことをいいますが、「大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品」については、規制対象から除外しています(大麻取締法1条)。これは、大麻草の成熟した茎や種子には、有害な物質がほとんど含まれておらず、食品などに使用されていることが理由です。

    このように大麻草には有害な部分と有害でない部分が含まれますが、大麻を使用した場合にどの部分を使用したのかを判別することが困難です。そのため、大麻取締法では、覚せい剤のような自己使用は処罰の対象から除外をしています。

    令和2年度版犯罪白書によると、令和元年における大麻取締法違反の検挙人員は、4570人で、覚せい剤取締法違反に次いで2番目に多い数字です。20代の若者を中心に検挙者が多いのも、大麻犯罪の特徴といえます。

  3. (3)あへん法

    あへん法とは、あへんの輸入、輸出、譲渡、譲受、所持やけしの栽培等を禁止する法律です。

    あへん法の取り締まり対象であるあへんとは、けしの液汁が凝固したものおよびこれに加工を施したものをいいます(あへん法3条2号)。また、けしとは、パパヴェル・ソムニフェルム・エル、パパヴェル・セティゲルム・ディーシー及びその他のけし属の植物であって、厚生労働大臣が指定するものをいいます(あへん法3条1号)。

    令和2年度版犯罪白書によると、令和元年におけるあへん法違反の検挙人員は、わずか2人で、薬物事犯の中では最も少ない数字となっています。

  4. (4)麻薬および向精神薬取締法

    麻薬および向精神薬取締法とは、麻薬および向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤、譲渡しなどを禁止する法律です。

    麻薬および向精神薬とは、ヘロイン、コカイン、MDMA、マジックマッシュルームなどが含まれます。麻薬および向精神薬取締法違反行為に対しては、ヘロインとその他の麻薬とに区分した上で、ヘロインの場合により重い刑罰が科されることになります。

    令和2年度版犯罪白書によると、令和元年における麻薬および向精神薬取締法違反の検挙人員は、558人でした。

2、禁止薬物にまつわる罪と刑罰

以下では、薬物四法で禁止される具体的な行為と刑罰について説明します。

  1. (1)覚せい剤取締法

    覚せい剤取締法では、営利目的の有無によって刑罰の重さが大きく変わってきます。検挙されることが多い覚せい剤の単純所持・使用に関しては、法定刑が10年以下の懲役と規定されています。

    初犯の場合には、執行猶予付きの判決が言い渡されることが多いですが、所持する覚せい剤の量が多量であった場合や営利目的が認められる場合には、初犯であっても実刑判決になる可能性もあります。

    禁止行為 罰則
    輸出入、製造 営利目的 無期または3年以上の懲役。情状により1000万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上の懲役
    譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 10年以下の懲役
    原料の輸出入、製造 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 10年以下の懲役
    原料の譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役
  2. (2)大麻取締法

    大麻取締法でも、覚せい剤取締法と同様に営利目的の有無によって、刑罰の重さが変わってきます。大麻の単純所持の初犯であれば、執行猶予付きの判決が言い渡されることが多いですが、前科や営利目的が認められる場合には、実刑判決となる可能性が高くなります。

    禁止行為 罰則
    輸出入、栽培 営利目的 10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役
    譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 7年以下の懲役。情状により200万円以下の罰金が併科
    非営利目的 5年以下の懲役
  3. (3)あへん法

    令和2年度の犯罪白書の統計からもわかるとおり、あへん法違反で検挙されることは非常に珍しい犯罪であるといえます。あへん法も営利目的の有無によって刑罰の重さが変わってきます。

    禁止行為 罰則
    けしの栽培 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上10年以下の懲役
    けしがら輸出入 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上10年以下の懲役
    けしがらの譲渡、譲受、使用、所持 営利目的 1年以上10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役
    あへんの輸出入、製造 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上10年以下の懲役
    あへんの譲渡、譲受、所持 営利目的 1年以上10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役
    あへんの使用 7年以下の懲役
  4. (4)麻薬および向精神薬取締法

    麻薬および向精神薬取締法では、ヘロインとそれ以外の麻薬および営利目的の有無によって刑罰の重さが変わってきます。ヘロインについては、覚せい剤と同様に重い刑罰が科されることになり、営利目的での輸出入、製造に対しては、無期懲役という重い刑罰が科される可能性があります。

    禁止行為 罰則
    ヘロイン 輸出入、製造 営利目的 無期または3年以上の懲役。情状により1000万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上の懲役
    譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 10年以下の懲役
    ヘロイン以外の麻薬 輸出入、製造 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上10年以下の懲役
    譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 1年以上10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役
    麻薬原料 輸出入、製造 営利目的 1年以上の懲役。情状により500万円以下の罰金が併科
    非営利目的 1年以上10年以下の懲役
    譲渡、譲受、所持、使用 営利目的 1年以上10年以下の懲役。情状により300万円以下の罰金が併科
    非営利目的 7年以下の懲役

3、禁止薬物について、逮捕されたら

禁止薬物の使用や所持が判明した場合には、警察によって逮捕される可能性があります。禁止薬物の犯罪に関しては、通常の犯罪とは異なり、以下のような特徴があります。

  1. (1)長期間身柄拘束がされる可能性がある

    薬物事犯で逮捕された場合には、その後勾留された長期間身柄拘束がされる可能性があります。その理由には、薬物事犯の特殊性が関係しています。

    薬物事犯では、薬物の入手先という共犯者が存在しますので、共犯者と口裏を合わせることによって証拠の隠滅を図ることが可能になります。また、薬物自体も水に流すなどして容易に処分することができる性質のものが多いため、罪を軽くするために所持する薬物を処分してしまう可能性があります。

    このように薬物事犯では、罪証隠滅のおそれが高いことからそれを防止するために長期間身柄拘束がなされる可能性が高いといえます

  2. (2)被害者と示談ができない

    窃盗や傷害事件であれば、被害者が存在しますので、被害者と示談をすることによって不起訴処分となったり、裁判で有利な判決を獲得することができます。

    しかし、薬物事犯は、他人を傷つけたり、他人の財産を侵害する性質の犯罪ではなく、薬物使用など基本的には自分だけで完結する犯罪です。そのため、薬物犯罪の性質上、被害者というものは存在しないため、被害者と示談をすることによって処分を軽くしてもらうことができません。

4、弁護士への早期相談が大切

薬物犯罪の被疑者となった場合には、すぐに弁護士に相談をすることが大切です。

  1. (1)早期の釈放を目指した活動

    薬物事犯で逮捕された場合には、長期間の身柄拘束が続くことになります。薬物事犯では、初犯であっても起訴される可能性が高いため、適切な弁護活動を行わなければ起訴後も引き続き身柄拘束が継続することになってしまいます。

    弁護士であれば、起訴前であっても早期の身柄解放に向けて検察官や裁判所に働きかけることができます。仮に起訴されたとしても保釈請求を行うことによって、身柄解放を実現することが可能です。

  2. (2)有利な処分を獲得するための活動

    薬物事犯の再犯率は、非常に高いため、仮に起訴されてしまった場合には、再犯の可能性がないことを裁判官に対して説得的に伝えていくことが重要となります。

    自らの罪を反省することも重要ですが、薬物依存に陥っている場合には、社会復帰を目指して更生プログラムに取り組むということも必要になります。弁護士であれば、再犯可能性を軽減するための医療機関や更生施設を利用しながら、一緒に薬物との関係を断つ方法を考えていくことができます。

5、まとめ

覚せい剤、大麻、麻薬などさまざまな違法薬物が存在しており、それぞれの薬物に応じて使用や所持などを取り締まる法律が存在しています。違法な薬物に関わってしまった場合には、初犯であっても起訴される可能性が高いため、早期に弁護士に依頼をして適切な弁護活動を行うことが重要です。

薬物に関する犯罪に関与してしまった方は、できる限り早期にべリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています