現行犯逮捕以外(後日逮捕)で大麻取締法違反による逮捕はあるのか?
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大麻は、20代の若者を中心に使用されています。海外旅行で現地において使用し、帰国の際に国内に持ち込んだり、インターネットや歓楽街で入手したり、自分で栽培して使用するというケースもあるようです。
近年、大阪では、大麻の乱用で検挙された少年の数が増加しており、平成29年度は39人であったところ、平成30年上半期だけで51人にのぼりました。
このことから、大麻所持は、若年層に広がるなどして深刻な社会問題となってきていることが伺えます。大麻の所持による逮捕は、他人事ではないかもしれません。
今回は、現行犯逮捕以外で大麻取締法違反による逮捕をされることがあるかどうかについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。
1、大麻取締法違反によって逮捕される要件・刑罰
大麻取締法違反によって現行犯逮捕以外(後日逮捕)をされることはあるのでしょうか。
以下では、通常逮捕の一般的な要件と大麻取締法によって処罰される行為について説明します。
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(1)逮捕の要件
警察が逮捕を行うためには、逮捕の理由、すなわち、その者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由が存在する必要があります(刑事訴訟法199条2項)。
また、勘違いされやすいのですが、罪を犯すと必ず逮捕されるわけではありません。
被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重、態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがあること、または罪証を隠滅するおそれがあるなど、明らかに逮捕の必要性がないとはいえないことが要件となります(刑事訴訟法199条2項但書)。 -
(2)大麻取締法によって処罰される行為とは?
大麻取締法では、以下の所持、譲渡、譲受、栽培、輸入、輸出を処罰の対象としています。
① 大麻の所持・譲渡・譲受
大麻を所持し、譲り受けまたは譲り渡した場合の罰則は、5年以下の懲役です。営利目的であった場合には、7年以下の懲役、または7年以下の懲役と200万円以下の罰金の併科になることもあります。
② 大麻の栽培・輸入・輸出
大麻を栽培し、輸入しまたは輸出した場合の刑罰は、7年以下の懲役です。営利目的であった場合には、10年以下の懲役、または10年以下の懲役と300万円以下の罰金の併科になることもあります。
2、大麻所持で逮捕される場合のパターン
大麻所持の事案では、職務質問の際に所持品から大麻が見つかったというケースで現行犯逮捕される事案が多い傾向にあります。
もっとも、大麻所持の事案でも現行犯逮捕以外の通常逮捕がされる事案も存在します。具体的には、予試験(簡易検査)で植物片が大麻だと判別できなかったケースなどが該当するでしょう。
大麻所持の事案では、所持していた植物片が大麻であるかどうか簡易検査が行われます。
覚せい剤の所持の事案でも同様に簡易検査が行われますが、大麻の簡易検査は覚せい剤と異なり、検体の色の変化が明確でない場合があり、簡易検査をしても植物片が大麻であるか判別しない場合があるのです。
そのような場合には、簡易検査ではなく、科学捜査研究所の正式鑑定が行われることになります。
ただ、簡易検査と異なり、正式鑑定は、結果が出るまでに期間を要します。そのため、簡易検査で所持している植物片が大麻であることが確認できなければ、現行犯逮捕されることはなく、その場から解放されることになるのです。
しかし、正式鑑定の結果、所持していた植物片が大麻であることが明らかになった場合には、逮捕状が請求され、通常逮捕がされることになります。
3、初犯でも大麻所持で逮捕される? 使用のみの場合は?
初犯でも大麻所持で逮捕されることはあるのでしょうか。また、大麻を所持しておらず使用したのみで逮捕されることはあるのでしょうか。
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(1)初犯でも逮捕の可能性はある
初犯であっても簡易検査の結果、所持していた植物片が大麻であることが明らかになれば、現行犯逮捕がされるのが通常です。簡易検査では大麻であることが明らかにならず正式鑑定となったとしても、その後、通常逮捕となります。
このように、大麻を含む薬物事犯については、初犯であっても逮捕がされることが一般的であるといってよいでしょう。
さらに、大麻を含む薬物事犯については、勾留請求をされ、逮捕後もそのまま身柄拘束される可能性があります。これは、大麻の入手先などの捜査をする必要があり、身柄を解放した場合には、関係先などに先回りされ証拠を隠滅されるおそれがあるからです。 -
(2)大麻の使用については処罰の対象外
大麻取締法では、大麻の所持を規制していますが、使用については処罰の対象外としています。なぜ「使用」が対象外なのか、疑問に思う方もいるでしょう。
これは、大麻草から成熟した茎や種子が大麻取締法の規制対象外とされていることが関係しています。大麻草から成熟した茎や種子については、有害な物質がほとんど含まれていません。実際、私たちの身の回りでも、七味唐辛子や小鳥のえさなどに、大麻草の種子が含まれていることがあります。
さて、「ほとんど含まれていない」と表現したように、大麻草から成熟した茎や種子にも微量ながら有害物質が含まれていることもあります。そのため、尿から大麻の陽性反応が出たとしても、それが規制対象の大麻を使用したものなのか、規制対象外の茎や種子を使用したものなのかを判別することができません。
罪刑法定主義という刑法の大原則からすると、処罰範囲が不明確ということは認められないため、大麻の使用は処罰から除外されているのです。
もっとも、意図して大麻を使用していた場合、その前提として大麻を所持していた可能性が高まりますので、自宅の捜索をした結果、大麻が発見され、大麻の所持として逮捕されることになるでしょう。
4、大麻所持で逮捕された場合の流れ
大麻所持で逮捕されてしまった場合、その後はどのような流れで手続きが進行するのでしょうか?
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(1)逮捕・取り調べ
逮捕をされると、警察署で警察官による取り調べが行わることになります。そして、警察官は、逮捕をしてから48時間以内に検察官に送致をする手続きをとらなければなりません。
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(2)送致・勾留
警察官が事件を検察官に送致した場合、送致を受けた検察は24時間以内に勾留を請求するかどうか決めなければなりません。通常は、裁判所に対して勾留請求をすることが多いです。
裁判所によって勾留決定がされた場合には、さらに身柄拘束が続くことになります。身柄拘束の期間は、勾留延長をされた場合には、最大20日間にも及びます。
勾留がされると長期間身柄拘束が続くことになり、日常生活において多大な不利益が生じることになります。勾留に対しては、準抗告という手段で争うこともできますし、検察官による勾留請求がされないように働きかけたり、裁判所に勾留却下となるよう働きかけたりすることも可能です。
そのような手段で身柄の解放を目指す場合には、身柄拘束を受けている本人ではどうにもなりませんので、早期に弁護士に依頼して、動いてもらうとよいでしょう。 -
(3)起訴・不起訴の決定
勾留期間が満了する時点または在宅であれば捜査が終了した時点で、検察官は、事件を起訴するかどうかを決めます。
大麻の所持の事案では、犯罪を裏付ける証拠が十分である事案が多いため、薬物事犯以外の他の犯罪類型と比べると起訴される可能性が高いといえます。
もっとも、大麻所持の場合、所持していた大麻の量が微量であったとき、場合によっては不起訴(起訴猶予)処分となることもありえます。
不起訴処分となれば、前科がつくこともありませんが、不起訴処分の獲得は簡単ではありません。不起訴処分の獲得を目指すのであれば、弁護士に依頼をし、不起訴に向けて尽力してもらうとよいでしょう。 -
(4)刑事裁判
検察官によって起訴された場合には、刑事裁判で大麻所持の事実で裁かれることになります。刑事裁判には、通常裁判と略式裁判の2種類がありますが、大麻所持の事案では、罰金刑のみという選択はありませんので、必ず通常裁判が行われることになります。
刑事裁判では、事案の内容や情状を踏まえて最終的に判決が言い渡されることになります。初犯の場合には、執行猶予付きの有罪判決を受けることが多いので、直ちに刑務所にいかなくてもよい場合が多いです。しかし、薬物事犯は何度も繰り返す傾向がありますので、同種前科があるという場合には、実刑判決となることもありますので注意しましょう。
なお、起訴された後も身柄拘束が続く場合には、保釈という身柄解放の手続きをとることが可能です。保釈を求めるには、保釈金と身元引受人を確保する必要があります。
身柄拘束が長期化すれば、それに伴う不利益も増大しますので、早期の身柄解放に向けて弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
芸能人が大麻で逮捕されたというニュースもよく耳にするようになり、大麻は比較的身近な薬物になってきています。大麻の所持で現行犯逮捕とならなかったとしても後日通常逮捕がされるという場合もあるでしょう。
早期に弁護活動を開始することで、不起訴や身柄解放の可能性が高まります。ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスでは、大麻所持の嫌疑をかけられている方や大麻所持で逮捕された方の家族からの相談にも対応しています。お気軽にご相談ください。
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