相続税の配偶者控除は1億6000万円! 知っておくべきポイント

2022年08月29日
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相続税の配偶者控除は1億6000万円! 知っておくべきポイント

大阪国税局が公表している相続税の申告事績によると、令和2年の被相続人の数(死亡者数)は、9万1644人で、そのうち相続税の申告書の提出が必要となった被相続人の数は、8092人でした。

このように大部分の方は、相続税の申告不要となりますが、相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超えているような場合には、相続税の申告と納税が必要になります。

しかし、相続税の申告が必要となるケースであっても相続税の配偶者控除を適用することによって、相続税の負担をゼロまたは大幅に軽減することが可能です。相続税の配偶者控除は非常に便利な制度ですが、二次相続などを考慮せずに安易に遺産分割をすると将来の相続税の負担が重くなるリスクもあります。

今回は、相続税の配偶者控除を利用する際のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスの弁護士が解説します。

1、相続税の配偶者控除とは

相続税の配偶者控除とはどのような制度なのでしょうか。以下では、制度の概要と要件について説明します。

  1. (1)相続税の配偶者控除の概要

    相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者だけが利用することができる相続税の軽減制度です。相続税の配偶者控除を利用することによって、以下のうちいずれか多い方の金額までは相続税が非課税となります。

    • 配偶者の法定相続分に相当する金額
    • 1億6000万円


    このような配偶者控除が設けられたのは、被相続人の財産形成には配偶者の貢献があったと考えられること、被相続人死亡後の配偶者の生活保障に配慮する必要があること、近い将来相続が発生することが予想されるため税負担が過大になることなどが理由とされています。

    配偶者控除を利用することによって、ほとんどのケースでは、配偶者に相続税がかからなくなります。

  2. (2)相続税の配偶者控除を利用する場合の要件

    相続税の配偶者控除を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

    ① 被相続人の配偶者であること
    相続税の配偶者控除は、配偶者のみに認められている特別な制度ですので、適用を受ける相続人が被相続人の配偶者であることが必要になります。ここでいう「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある配偶者のことをいい、内縁の配偶者については、配偶者控除の適用を受けることはできません

    なお、法律上の配偶者であれば足りますので、婚姻期間が1日であるという場合でも配偶者控除を受けることはできます。

    ② 相続税の申告期限までに遺産分割を終えていること
    配偶者控除の金額については、配偶者が実際の遺産分割によって相続した相続財産の金額に基づき計算することになります。そのため、相続税の配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに遺産分割を終えていることが必要になります。

    遺産分割をするためには、相続人全員で話し合いをして遺産の具体的な分け方を決めなければなりません。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内となっていますので、相続税の配偶者控除を利用する場合には、早めに遺産分割の手続きに着手することが大切です。

    ③ 相続税の申告書を提出していること
    相続税の配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告書を税務署に提出する必要があります。その際には、遺産分割協議書の写し、相続人全員の印鑑証明書、戸籍謄本なども一緒に提出します。

2、配偶者控除の注意点

相続税の配偶者控除を利用する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)二次相続も踏まえた対策が必要

    配偶者控除を利用する場合には、二次相続も踏まえた対策が必要となります。二次相続とは、遺産を相続した人が亡くなった場合の相続のことをいいます。

    たとえば、父、母、長男、長女という家族構成で、父が亡くなった場合には、母、長男、長女が相続人となり父の遺産を相続することになります。これを「一次相続」といいます。

    そして、その後、母が亡くなった場合には長男、長女で母の遺産を相続することになります。これを「二次相続」といいます。

    上記のような二次相続が発生した場合には、配偶者控除の適用対象となる配偶者がおらず、さらに相続人が一次相続よりも減ってしまいます。すると、相続税の基礎控除の額も減ってしまい、また、二次相続では配偶者の財産に一次相続で取得した遺産も加算されることから、二次相続の方が相続税が高くなってしまうおそれがあるのです。

    このように、一次相続において、配偶者控除の範囲内に収まるからといって、配偶者にすべての遺産を相続させてしまうと、近い将来発生する二次相続において、子どもたちが多額の相続税を負担しなければならないという事態に陥る可能性があります。

    そのため、一次相続の際には二次相続において生じる相続税の負担も考慮したうえで、遺産分割を行うようにしましょう

  2. (2)遺産分割が申告期限までに間に合わない場合

    相続税の配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに遺産分割を終えている必要があります。しかし、相続税の申告を必要とする事案は、相続財産が多くなるため、遺産分割が成立するまでに長期間を要するケースも少なくありません。被相続人の葬儀や法要などを行っていると、あっという間に相続税の申告期限が来てしまうということもあります。

    そのような場合には、相続税の申告期限までに相続税の申告書とともに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することによって、申告期限後であっても配偶者控除の適用を受けることが可能です

    「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出時点では、仮の金額で相続税の申告と納税をすることになりますが、その後、遺産分割が成立した場合には、修正申告または更正請求をすることによって、配偶者控除を利用することが可能となります。

  3. (3)相続税が0円の場合でも申告が必要

    相続財産の総額が相続税の基礎控除を上回っている場合でも、配偶者控除を適用した結果、相続税が0円になるというケースも少なくありません。このような場合には、相続税の負担がないため相続税の申告が必要ないと考える方もいますが、それは誤りです。

    相続税の金額0円になるという場合でも、配偶者控除の適用を受けるためには、必ず相続税の申告書を提出する必要がありますので、忘れずに行いましょう

3、遺産相続は弁護士に相談を

遺産相続に関するお悩みは、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)二次相続を踏まえた対策は専門家のサポートが不可欠

    相続税の配偶者控除を利用することによって、配偶者が負担する相続税の金額はほとんどのケースで0円となります。しかし、被相続人と配偶者とは世代も近いことから、近い将来二次相続が発生するかもしれません。

    二次相続の相続人が負担する相続税を軽減するためには、一次相続の遺産分割の時点から二次相続も踏まえてシミュレーションしたうえで、遺産分割方法を決めていく必要があります。

    そのためには、遺産分割や相続税に関する専門的な知識が必要となりますので、配偶者控除の効果を最大限に活用するためにも専門家である弁護士に相談をするようにしましょう。

  2. (2)面倒な遺産分割の手続きを任せることができる

    相続税の申告が必要なケースでは、被相続人が死亡した日の翌日から10か月以内に遺産分割を終えて相続税の申告をしなければなりません。

    しかし、遺産分割をするためには、その前提として相続人の調査や相続財産の調査が必要になりますが、平日の昼間に時間を取ることができない方も多いため、遺産分割を始めるまでに相当時間がかかることもあります。そして、いざ遺産分割をしようと思っても相続人同士で利害が対立してしまいスムーズな話し合いができないということもあるでしょう。

    弁護士であれば相続人の調査や相続財産の調査をスムーズに完了して、遺産分割協議に着手することが可能です。相続財産が多く内容も複雑な事案であっても、弁護士が法的観点から適切に整理し、各相続人に説明をすることによって当事者だけで進めるよりも納得が得られやすいといえます。

    遺産分割の手続きに少しでも不安があるという場合には、弁護士に任せるとよいでしょう

4、まとめ

相続税の配偶者控除を利用することによって、非常に大きな節税効果を得ることができます。しかし、相続税の配偶者控除の利用にあたっては、二次相続も踏まえた対策が必要になりますので、安易な利用は、将来の二次相続の相続人の負担を増加させるリスクもあります。

ベリーベストはグループ内に税理士や司法書士等の士業が在籍しており、遺産相続に関するお客さまのお悩みに対応するワンストップサービスをご提供しています。必要に応じて、グループ内の各士業とも連携して適切な解決を図りますので、まずは、ベリーベスト法律事務所 豊中千里中央オフィスまでご相談ください。

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